買収はグローバル成長の
序章にすぎない
経験を積みながら学んでいく、とはいえ、実際はそれほど時間をかけられないというのが、多くの経営者の本音ではないでしょうか。真っ先に解消すべき点はどこにありますか。
知野:まず、圧倒的に不足しているのがグローバル経営人材です。アメリカなどの企業が買収した場合、新たに送り込まれたCEOはそれまでのやり方を刷新することが多いので、新しいリーダーの下で新しいやり方が現場に明確に示されます。ところが日本企業が買収すると、明確な指示を出さず、積極的なコミュニケーションも不足している。これでは現場は困惑します。
強力なリーダーシップ、透明性、スピード感を持って早期にシナジー効果を実現させるPMIは難易度の高い分野です。優秀な若い人材に早くから海外事業の経験を積ませ、小さくても一つの会社を任せることで経営力を身につけさせることが重要です。地道に人材を育成する一方で、短期的には外部の力を活用して経験不足を補うことも必要です。
石原:加えて挙げるなら、失敗を許容する文化ではないでしょうか。成功確率が低いということは、アウトバウンドM&Aに携わった人材はその時点でバツが1つ付くことになります。それで貴重なリーダー候補の未来が奪われることがあってはなりません。
知野:そもそも、どの時点で見るかによっても成功と失敗の線引きは変わってきます。短期的に失敗といわれる案件の多くはプレディールの段階である程度決まっている部分がある一方で、そういう案件でも中には長い時間軸で評価すれば、結果的にグループ全体への貢献が大きく、成功といえるM&Aもあります。PMIでは100日が一つの区切りとされますが、それはあくまでも入り口にすぎず、本当の意味で事業を融合させてシナジーを創出していくためには、腰を据えて経営に当たっていくよりほかにありません。日本企業にとってアウトバウンドM&Aは、グローバル成長戦略の序章でしかないのです。
私たちKPMGでは、世界のネットワークに20万人の多様な背景を持ったプロフェッショナルがおり、日本企業の海外M&Aの成功確率を上げ、長期的な企業価値の向上をお手伝いしています。海外M&Aにおいては、税務を含めた戦略的アプローチから、案件のソーシング、実行、PMIまで一貫したサービスを提供しています。また、進出国によっては対象会社などの不正リスクへの対応も、M&Aを成功に導くうえで重要で、その点についても現地チームとの連携による支援体制を構築しています。
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