グローバル経営管理を
買収先から学ぶことも

 話を伺うにつけ、アウトバウンドM&Aがいかにリスクの高い投資であるかがわかります。それでも行うべきだと思いますか。

知野:市場が縮小する日本での成長には限界があります。日本企業がさらなる成長を追い求める以上、海外の市場への事業拡大は必須で、「やらない」という選択肢はないはずです。また、M&Aを考える場合、「やらない」という決断にもリスクがあることに目を向けるべきです。たとえば規模の経済性が働きやすい業界などでは、最大手による同業の有力企業の買収などが起こった場合、ほぼ勝負がついたといえる状況になってしまいます。世界的に国境を超えた寡占化が進むと考えられる業界は多くあり、オーガニックな成長だけでは、将来の自社の戦略が大きく制約を受ける事態に追い込まれる事態が考えられます。

 M&A巧者といわれるグローバル企業でも買収した企業の3、4割を3年以内に手放しています。つまり6割程度は失敗だと考えれば、本格的にM&Aを始めたばかりの日本企業がそう簡単に成功するとは思えません。損失の範囲を受容可能なものに留めると同時に、失敗から学びながら、経験を積んでいくことが大切です。

石原:M&Aを通じた学習効果を高めるうえで重要なのが、買収した企業のよいところは積極的に取り入れるマインドセットと、そのための体制づくりです。たとえば税務面では日本企業に比して欧米企業は相対的に税務に対する意識が高く、管理体制が充実しています。欧米企業にとっては税金もコストの一つであり、実効税率を全体で下げていくことは経営者が戦略を持って意思決定するもので、株主に対しても常に説明責任を負うと考えられているからです。買収した海外企業の税務戦略に刺激を受けて、自社の税務戦略・管理体制の強化につなげている事例もあり、それもまたM&Aの効用といえるのではないでしょうか。

知野:M&Aにおいて格下が格上を買収するケースは珍しくありません。特にグローバル経営においては、日本企業が自社よりも錬度の高い企業を傘下に置くことはよくありますし、逆に日本企業が秀でている部分も多くあります。買収を機にお互いのよいところ悪いところをゼロベースで棚卸しし、よりよい経営システムの採用や人材配置を透明性と納得感を持って進めていくことがPMIのベストプラクティスといえます。海外M&Aを契機に自社を真のグローバル企業に生まれ変わらせるという強い意志と体制づくりが必要です。