海外M&Aのリスクは
不可避なのか

 買収時のデューデリジェンスの徹底は口を酸っぱくして言われるところですが、ふたを開けてみたらこんなはずではなかったというケースが後を絶ちません。大勢の専門家が関わりながら、なぜ致命的とも取れる瑕疵を見逃してしまうのでしょうか。

知野:競争的なM&Aマーケットであることから、いま現在は売り手市場の状況にあります。そうした中、売り手サイドが買い手のデューデリジェンスの範囲や時間を過度に制限する傾向が実務上見られます。買い手としては、ある程度リスクを飲み込んで意思決定せざるをえない局面もあるのが実態です。

 ただ、そういった制約下においても、プレディールの段階でM&A後を想定し、顕在化する確率が高く重要性の高いリスクを洗い出し、買収契約後に即座に対処できる準備と体制を整えておくことで、損害を最小限に抑えることは可能です。限られた時間とリソースをリスクの高いところに振り向けるために、経験豊富な「鼻の利く」アドバイザーを使うことも重要であると思います。

石原:現実には、デューデリジェンスには時間やアクセスなどの制約が多いので、何を集中的に調査するかを判断する必要があります。たとえば多国籍企業を買収する場合、税務面のリスクは慎重に調査しなければならない項目の一つです。租税回避行為はしていないか、税務当局との間に係争はないか、多額の追徴課税の可能性はないかといった点を検討します。税制は国によってさまざまであり、租税体系が複雑で変更が多い国、当局の恣意的な運用が問題視されている国など、日本の常識は通用しません。

 また、複数ある事業や子会社のどこに重点を置くかも重要です。規模の大きさだけを基準に調査範囲を決めると、小さな事業や子会社が隠し持っている爆弾を見落とすことにもなりかねません。深掘りする対象はいくつかに絞らざるをえないとしても、一通り全体を見て理解しておくことが買収後の適切なマネージにもつながります。