金田宏渦中の金田宏・天馬常務取締役が単独インタビューに答えた Photo:Takeshi Shigeishi

家庭用収納ケースの「Fits」ブランドで知られるプラスチック製品メーカーの天馬が、前代未聞のお家騒動に揺れている。創業家で大株主の前名誉会長が解任を求めるのは、不祥事に関与したとされる同じ創業一族の金田宏常務らだ。社内の監査等委員会からも「取締役候補として不適切」とされた金田氏本人に、疑惑の真相について直撃した。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

ベトナム贈賄事件と出資金流用疑惑から
創業家分裂の委任状争奪戦に突入

 天馬の創業は戦後の1949年。長男・金田忠雄、次男・金田保彦、三男・神田哲民、そして四男・司治の4兄弟が、東京都荒川区で始めた日用品雑貨やゴム製履き物の製造販売にルーツを持つ東証1部上場企業である。

 早くからプラスチックの成形・加工事業に進出し、80年代後半から海外進出を本格化。OA機器や自動車などの工業部品を大手メーカーに供給する。2020年3月期の売上高は857億円、純利益は前期比11.2%増の25億円。売上高の約7割は海外の工業品事業が占める。

 この天馬の発展をけん引したのが、長男、次男、四男と3代にわたって社長を引き継いだ創業家兄弟だ。

 だが、3代目社長の司治前名誉会長は「創業家は会社の業務執行から退くべき」との考えから、後継に非創業家の銀行出身者を指名。現在の6代目社長は、初のプロパー社員出身である藤野兼人氏だ。2代目社長の金田保彦氏の子である保一氏が代表取締役会長、その子の宏氏は常務取締役に就く。

 こうした構図の中で、大株主でもある司前名誉会長が、金田親子を含む現取締役全員の解任を求める株主提案を行ったのが今年4月のことだ。

 その直接の引き金となったのは、ベトナム子会社で発覚した贈賄事件である。第三者委員会の調査報告書によれば、17年と19年、現地の税関局から調査を受けた際に高額の追徴金が必要と指摘され、子会社社員らが「調整金」として計2500万円相当の現金を手渡した。

 司前名誉会長は「創業家が取締役にとどまり続ける限り、コーポレートガバナンスの欠如は改善されない」として、実務に通じた非創業家の執行役員8人を取締役に選任するよう求めている。

 これに対し会社側は、事件の責任を取る形で藤野社長の退任を発表する一方、第三者委員会の報告書で責任を指摘された金田常務と須藤隆志財務経理部長については取締役に再任する議案を対抗提案。今月26日開催の定時株主総会で株主の賛同を得るべく、司前名誉会長側と会社側で激しい委任状争奪戦が繰り広げられている。

 ベトナム事件の対応のまずさに加え、金田常務にはもう一つ、前名誉会長側が追及する「疑惑」がある。

 自身が天馬入社前の2006年に設立したIT会社スピンシェルに対し、天馬が19年5月に行った6000万円の出資についてだ。6000万円が払い込まれた日に金田常務がスピンシェルに対する貸付金4000万円を回収していることから、「債務超過の会社を経由し、天馬の出資金を私的流用した」と指摘される。

 こうした事件や疑惑を踏まえ、今回の委任状争奪戦が異例なのは、社外取締役の監査等委員が、会社提案の取締役候補のうち金田常務、須藤氏、そして不祥事に関わった海外拠点長の選任に反対している点にある。14年に改正された会社法では、ガバナンス改革の一環として新設された監査等委員会に人事議案への意見陳述権が与えられたが、実際に反対意見が招集通知に記載されるのは初という珍事だ。

 さらに機関投資家の投票行動に影響力を持つ米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラス・ルイスも、金田常務ら3人の選任について反対を推奨している。

 会社提案の取締役候補の中で唯一の創業家出身である金田常務は、仮に再任が承認された場合、7代目社長に就任する可能性が高い。だが、天馬のカリスマ的存在である大叔父の司前名誉会長だけでなく、現取締役メンバーである監査等委員からも再任に反対され、まさに“四面楚歌”の状況だ。

 それでも経営者を続けるのか――。金田常務を直撃したところ、天馬の知られざる内情について語り始めた。

 一問一答は以下の通り。

――ベトナム子会社で起きた贈賄事件に関し、現取締役の経営責任をどう考えているか。

 もちろん責任は免れ得ない。ただ本件を話す上で大事な前提があることを説明したい。この前提がなければ、事件を調査した第三者委員会報告書の全体像を読み解くことはできません。