「人生を変えるのに、最も効果的なライフハックとは何だろう?」と、デイヴ・アスプリー氏はこれまで20年近くかけて、シリコンバレーの最新のラボからチベットの修道院まで、世界中のあらゆる場所に足を運んで、体当たりの自己実験で研究してきた。
さらに、脳科学、生理学、東洋哲学、心理学といった分野の専門家の他、アスリート、医師、ライフハックの達人まで、400人以上の研究者や成功者たちに、「最も重要な3つのことをあげてほしい」と取材を重ねてきた。
そんな探求の果てにつかんだ答えを「脳」「休息」「快楽」「睡眠」「運動」「食事」「幸福」「人間関係」等の分野に体系化、1冊の「究極のハック集」にまとめたのが『シリコンバレー式超ライフハック』(デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳)だ。
著者自身、「20年前にこの本に載っていることを知っていたら、どんなに人生が違っていただろう」という衝撃的なハックが目白押しの本書から、一部を特別に公開する。
一部のアスリートを「激怒」させた研究
マラソンのような激しいスポーツをすれば人間として成長できる、という考えには惹かれるものがある。特にはじめて走ったとき、意志力が強化されるなど、実際にそういう面もあるだろう。
だが、大局的見地に立てば、過剰な有酸素運動は身体に負荷をかけ、結果が出るまでに時間がかかりすぎる。その点、ハイパフォーマーは効率的に運動している。適切な時に、適切な方法で運動すれば、ホルモンの分泌を最適化することができる。
世界的に名高いストレングス&コンディショニングの指導者でありコーチであるチャールズ・ポリキンが到達した結論は、長距離の有酸素運動より筋力トレーニングのほうが脳の健康と総体的なパフォーマンスに良い、ということだ。
長距離の有酸素運動は脳の加齢を速めるとも結論づけた。この見解は一部の人びと(持久性運動の選手たち)を激怒させたが、その正しさを裏づける最新の医学研究がいくつか発表されている。
あなたが持久性運動の愛好家なら、いまここまで読んでムカッとしているかもしれないが、どうか本を閉じないでほしい。僕はあなたに大好きな運動をやめてしまえと言っているのではなく、筋力への働きかけも忘れないようにと望んでいるだけだ(男性にも女性にも)。
2013年、科学者たちがパーキンソン病の患者にはどんな種類の運動が有益かを調べた(*1)。3つの形態の運動について臨床試験を行った。それは低強度トレッドミル運動(ウォーキング)、高強度トレッドミル運動(ランニング)、ストレッチとウエイト・トレーニングを組み合わせた運動だ。
この研究については、チャールズと話す前から僕も知っていたが、この研究で使われたプロトコルに彼が関与していたことは知らなかった。臨床試験が開始される前に、有酸素運動は患者の症状を悪化させる可能性がある、とチャールズは研究者たちに警告していたが、はたしてそのとおりの結果になった。チャールズに言わせれば、当然のことが起こっただけであった。彼が言ったとおり、ストレッチとウエイト・トレーニングの組み合わせを行った患者に最高の効果が現れた。低強度のウォーキングでも数名の患者には効果が見られた。
この結果は、パーキンソン病ではない人にもあてはまるのか? チャールズは、あてはまると考えている。有酸素運動は、特に高血圧の人、肥満体または座っている時間が長い人、内臓脂肪の多い人にとっては当然のメリットがある。チャールズはそれを認めたうえで、それでも長期にわたる有酸素トレーニングには、多くの人が気づいていない重要なデメリットがあると指摘する。
酸化ストレスで「加齢現象」が加速してしまう
まず第1に、有酸素トレーニングは、コルチゾール(ストレスホルモン)値を上昇させる。それで炎症が起こり、加齢が加速する。コルチゾール値が高まると、体内の酸化物質の量が増加する。この酸化物質が、脳、心臓、消化管、その他の器官の炎症を増大させる。
筋力トレーニングでもコルチゾール値は上昇するが、その上昇分は、ほかの有益なホルモンの放出で相殺される。だが有酸素運動では、その放出が起こらないのだ。
2010年のある研究では、300人以上の持久性運動の選手(長距離走者、トライアスロン選手、自転車競技者)のコルチゾール値を調べ、非アスリート対照群と比較した。その結果として、有酸素運動競技者のコルチゾール値は対照群よりもかなり高く、この値の高さとトレーニング量の多さに明確な相関関係が認められた。研究者は次のように結論づけた。「以上のデータは、持久性アスリートがくり返し行う集中トレーニングや競技のストレスが、長時間にわたる高濃度のコルチゾール曝露と関連があることを示している(*2)」
2011年の研究では、健康で活動的な男子大学生に対する自転車こぎの影響を調べた結果、コルチゾール値と炎症マーカーがかなり増大することがわかった(*3)。これは重大な発見だった。心疾患、癌、糖尿病、アルツハイマー病など、命にかかわる病気の多くの根底には慢性の炎症が存在するからだ(*4)。結びつきがもっと明確なデメリットは、頭脳の明晰さとエネルギーの低下である。
さらに、有酸素トレーニング中は呼吸数が増して酸素が豊富な体内環境となり、それに反応するかたちで体内に有害なフリーラジカルが生成される。このフリーラジカルが酸化ストレスを生み出し、身体のダメージを修復してくれる抗酸化物質を激減させてしまう。酸化ストレスは加齢現象の主要因であり、過度の有酸素運動が酸化ストレスを引き起こすというのはすでに定説である(*5)。
「筋トレ」を加えれば問題は解決する
チャールズも僕も、有酸素運動を行うときは抗酸化物質とプロバイオティクス(善玉菌)のいずれか、または両方のサプリメントを摂取することを推奨している。ただしチャールズは、それよりも運動のルーティンに単に筋力トレーニングを加えるほうがもっと効果的だと言う。
筋力トレーニングは蛋白同化ホルモンを放出させ、それが酸化ストレスに抵抗し、筋肉、骨、結合組織を生成し、有酸素運動のダメージを取り除く。周知のとおり、筋力トレーニングが骨減少症予防にとても有効なのに対し、有酸素系スポーツは骨のミネラル密度を低下させ、骨減少症の原因になりかねない(*6)。
(本原稿は、『シリコンバレー式超ライフハック』〈デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳〉からの抜粋です)
1. Liana S. Rosenthal and E. Ray Dorsey, “The Benefits of Exercise in Parkinson Disease,” JAMA Neurology 70, no. 2 (February 2013): 156–57; https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/article-abstract/1389387.
2. Hayriye Çakir-Atabek, Süleyman Demir, Raziye D. Pinarbaşili, and Nihat Gündüz, “Effects of Different Resistance Training Intensity on Indices of Oxidative Stress,” Journal of Strength and Conditioning Research 24, no. 9 (September 2010): 2491–97; https://insights.ovid.com/pubmed?pmid=
20802287.
3. Ebrahim A. Shojaei, Adalat Farajov, and Afshar Jafari, “Effect of Moderate Aerobic Cycling on Some Systemic Inflammatory Markers in Healthy Active Collegiate Men,” International Journal of General Medicine 4 (January 24, 2011): 79–84; https://www.dovepress.com/effect-of-moderate-aerobic-cycling-on-some-systemic-inflammatory-marke-peer-reviewed-article-IJGM.
4. Bharat B. Aggarwal, Shishir Shishodia, Santosh K. Sandur, et al., “Inflammation and Cancer: How Hot Is the Link?,” Biochemical Pharmacology 72, no. 11 (November 30, 2006): 1605–21; https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006295206003893. Dario Giugliano, Antonio Ceriello, and Katherine Esposito, “The Effects of Diet on Inflammation: Emphasis on the Metabolic Syndrome,” Journal of the American College of Cardiology 48, no. 4 (August 15, 2006): 677–85; https://www.science direct.com/science/article/pii/S0735109706013350?via%3Dihub.
5. Farnaz Seifi-skishahr, Arsalan Damirchi, Manoochehr Farjaminezhad, and Parvin Babaei, “Physical Training Status Determines Oxidative Stress and Redox Changes in Response to an Acute Aerobic Exercise,” Biochemistry Research International 2016, 9 pages; https://www.hindawi.com/journals/bri/
2016/3757623/.
6. Lanay M. Mudd, Willa Fornetti, and James M. Pivarnik, “Bone Mineral Density in Collegiate Female Athletes: Comparisons Among Sports,” Journal of Athletic Training 42, no. 3 (July–September 2007): 403–08; https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1978462/.