プロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手Photo:Matthew Stockman/gettyimages

 プロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手(22)は今夏、米ロサンゼルスからミネソタ州ミネアポリスに向かった。黒人男性ジョージ・フロイドさんが暴行を受けて死亡し、世界中の目がこの街に注がれていた頃だ。そこで抗議デモに参加したり、フロイドさんが殺害された場所で人々と語り合ったりした。代理人やコーチにも告げず、ボーイフレンドと一緒に出かけることにした。ラッパーのYBNコーディーさんだ。彼女がそこに行った唯一の証拠は、インスタグラムに一瞬投稿された何枚かの写真だ。彼女のフィードから写真はすぐ削除された。

「自分の目で確かめるチャンスがあれば、私はすぐ飛びつく」と大坂選手は話す。「テレビで抗議デモをずっと見ていた。だがいつもテニスをしていたから、行くチャンスがなかった。」。3歳で父親の指導の下、テニスを始めた大坂選手は、新型コロナウイルスでツアーが中止になり、ようやく初めて実質的なオフができたと話す。

 ミネアポリスを訪れたのは、テニスのためでもファンのためでもなく、記者に国籍についてあれこれ質問されることもなかった。2人はお忍びで出かけたが、それでもコーディーさんは2度ほど気づかれた。「私はそれほど有名じゃない」と大坂選手は話す。だがすでに女子テニス選手の世界ランキング1位を獲得しており、過去1年間の収入は女子スポーツ選手の中で世界最高額だった。ナイキやマスターカード、資生堂、日清食品など幅広いブランドと契約しているためだ。彼女はミネアポリスで2日間動き回り、あらゆることを浴びるように経験した。

「誰もがとても情熱的だった」。大坂選手はこう話す。「絶えず何かが起きて、誰がこの集会を企画したとかそういうことをお互いに話していた。私は本当に影響の大きい出来事だと思った」

 ミネアポリスのデモに参加することを決断し、その後ロサンゼルスの自宅に戻った大坂選手への反応は、おおむね好意的だった。ただ、自分の車線をはみ出さないようにとネット上で警告するコメントも一部にあった。数日後、彼女は50万人以上のフォロワーがいるツイッターのアカウントにこう投稿した。「アスリートは政治に関わるべきでない、人々を楽しませていればよいと誰かが言うのを私は聞きたくない。第1に、これは人権の問題だ。第2に、私よりもあなたの方が発言する権利があるという理由は? その論理でいくと、『GRÖNLID(グローンリード)』(ソファのシリーズ)について語ってもよいのは、イケアで働いている人だけということ?」 7月初め、彼女は米誌「エスクァイヤ」に、人種差別への抗議運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」を支持するエッセイを発表。その中で警察予算の削減を支持する考えも示した。