「これは内戦だ」黒人男性殺害抗議デモの激化に、震えて眠るLA市民デモ行進のサイン中で目立つ「黒い拳」のイラスト。「抵抗せよ」の意のアイコンでもある Photo by Miho Nagano

警官の膝の下で息絶えた黒人男性
コロナ禍の米国に渦巻く「怒り」

「息ができない!」「撃たないで!」「殺さないで!」

 5月30日(土曜日)の午後1時過ぎ、ロサンゼルスにある巨大ショッピングセンター「ビバリー・センター」の脇に到着すると、2万人以上の男女が口々にそう叫んでいた。見渡す限り一面、人・人・人だ。マスクをしている人も多いが、3密を遙かに越えて、軽く1000密ぐらいの感覚だ。

 ロサンゼルス市が自宅待機令を発令して70日以上たつが、こんなに大勢の群衆が一斉に集合したのを見るのは初めてだった。

「この場で取材したらコロナに感染するかもしれない」という不安が一瞬、筆者の脳裏をよぎったが、この歴史的瞬間を目撃しないわけにはいかない。

「I can't breathe」――この言葉は5月25日、ミネソタ州ミネアポリスの道路脇で、白人警官の膝の下に首を組み敷かれた黒人男性のジョージ・フロイドが死亡する前の断末魔に発した一言だ。「息ができない」「プリーズ」。彼は息絶え絶えに何度もそう哀願したが、白人警官は自らの膝をフロイドの首の上にプロレス技のように固定して体重をかけ、気道を塞ぎ続けた。

 8分46秒後、フロイドは警官の膝の下で息絶えた。

「これは内戦だ」黒人男性殺害抗議デモの激化に、震えて眠るLA市民白人警官の罪は第一級殺人だと主張する参加者 Photo by M.N.

 白人警官による黒人男性の殺人は、この国では目新しい事件ではない。そのたびに抗議の「BLMデモ」が起きる。BLMとはブラック・ライブズ・マターの略で「黒人の命を尊重せよ」という意味だ。

 だが今回のBLMデモは、これまでとは違い、規模が桁違いに大きいのだ。

 フロイドの断末魔の声と姿を撮影したビデオが公開され、またこの警官が「第三級の殺人罪」(殺す意図はなかった殺人)の疑いで起訴されると、多くの人々の怒りが爆発した。「なぜ第一級殺人罪ではないのか」と。

 まず事件後、地元ミネアポリスで最初に抗議デモが起こった。最初は平和的だったデモだが、数日後には、警察署の建物や街の店への放火、暴動に変容していった。暴動の逮捕者の追跡調査をすると、ミネアポリスやミネソタ州圏外からの「越境者」ばかりだったと、ミネソタ州政府は発表した。つまり、地元民中心の抗議デモと、暴動や略奪の当事者が違うようだということがわかったのだ。