メディアには「女のカラダ」に関する都市伝説があふれています。
「あたためは生理痛にも妊活にも効く」「仕事をしすぎるとオス化する」「恋愛やセックスをしていないと女性ホルモンが枯渇する」……。これらはどれも、医学的には根拠のない情報。でも、それに振り回されて、不調のスパイラルに陥ったり、落ち込んだりする女性は少なくありません。
「女体」についての第一人者、産婦人科医の宋美玄先生が、いまの医学でわかっている「ほんとうのこと」だけをベースに20代~40代女性の、身体や性の悩みに答えた新刊「医者が教える女体大全」の中から、一部を抜粋して紹介いたします。
女性の一生の生理回数は、昔の10倍近くになっている
子宮内膜症で婦人科にかかっていて、担当医に「妊娠しないと悪化するよ」などとアドバイスを受けた人は少なくないと思います。病気のためとはいえ、人生設計に口を出すのはどうかと思いますし、現代の日本人女性は出産回数がだいたい1~2回なので、してもしなくてもそこまで違いはありません。病気の未産女性を無意味に苦しめるだけなので、私はやめてほしいと思っています。
それにしても、なぜそんなことがいわれるのでしょうか? まず前提として知っておいてほしいのが、「女性が一生のうちにこんなにもたくさんの数の生理を体験するようになったのは、ヒトの歴史からするとつい最近のこと」という事実です。
100年ほど前までは、初潮年齢が現代より遅く平均が10代半ばごろでした。10代後半で初めての出産をする女性はめずらしくなく、その後3、4人、多ければ5、6人の子どもを産みます。妊娠中、授乳中は排卵も生理も止まります。ひとりの子を産んでおっぱいを与え、その子が少し成長したころに次の子を妊娠する……となると、生理はずっと止まったまま。そのサイクルを10年以上つづけます。つまり、女性たちにとって生理は「毎月あるもの」ではなかったのです。
では、現代は? 日本人女性の初産年齢の平均は30歳を少しオーバーし、子どもの数は1人か2人。子どもを持たない選択をする女性も増えています。つまり、人生の大半を「毎月、生理がある」状態で過ごします。かつては一生のうち50回という人もめずらしくなかった生理が、いまは450~500回(*1)、10倍近くになる計算です。
出産経験の有無を気にするより、ピルの服用を!
こんなに違うのですから、心身への影響も同じではありません。子宮内が血液にさらされるほど、子宮内膜症、子宮筋腫など病気になるリスクは高まります。理屈としては、生理の回数が少ないほどリスクが下がることになるので「出産経験があれば」といわれるのでしょう。しかし、現代では、よほどの子だくさんでなければ、人生通算の生理回数が15~30回減るだけなので、そこまで差はありません。
まして、生理の回数を減らすために子だくさんになるわけにもいかないですよね! 妊娠、出産も授乳も、病気予防のための手段ではありません。生理を止め卵巣と子宮を休ませるためには、ピルを服用すればいいのです。
ピルについて「自然じゃない」「昔の女性はそんなもの必要なかった」という人たちがいますが、こうして無駄な排卵と生理をやめ、卵巣と子宮を休ませるほうが、よほど”昔の女性”に近い状態になるのです。
(*1)Definition of the problem: The evolution of human reproduction Short RV. Proc. R. Soc. Lond. B. Biol. Sci. 195 (1118)3-24, 1976