メディアには「女のカラダ」に関する都市伝説があふれています。
「あたためは生理痛にも妊活にも効く」「仕事をしすぎるとオス化する」「恋愛やセックスをしていないと女性ホルモンが枯渇する」……。これらはどれも、医学的には根拠のない情報。でも、それに振り回されて、不調のスパイラルに陥ったり、落ち込んだりする女性は少なくありません。
「女体」についての第一人者、産婦人科医の宋美玄先生が、いまの医学でわかっている「ほんとうのこと」だけをベースに20代~40代女性の、身体や性の悩みに答えた新刊「医者が教える女体大全」の中から、一部を抜粋して紹介いたします。
性交痛の裏には病気が隠れていることも
セックスは気持ちいいもの、というのはポルノ産業が作ったイメージで、それがなかった時代、その認識は女性たちのあいだで共有されていなかったと考えられます。痛い、まったく気持ちよくないとクリニックに相談にくる女性の多くが、「私がおかしいのでは」と悩んでいます。いまは女性もネットなどでAVを目にすることがありますから、そこに映し出されている女性と自分とのギャップに苦しむのですね。
それ以前に、セックスで痛い─これを「性交痛」といいますが、これは深刻な問題です。痛みは心にも影響しますし、どんなに好きでもずっと苦痛しか与えてこない相手のことを大切に思いつづけるのはむずかしいことです。
痛みの原因はいくつか考えられます。まずは、病気。子宮内膜症があると子宮と卵巣、子宮と直腸などが癒着します。セックスでそこを突くように刺激されると、下腹部に痛みが走ります。これが性交痛を婦人科で相談してほしい理由です。
次に、性的な刺激を受けても体液が分泌されず、挿入時、男性が腰を動かすことで摩擦が生じるため入り口、もしくは腟内が痛みを感じている可能性もあります。通常は性的な刺激を受けると性器周辺の血流が増し、腟粘膜から体液が分泌されて潤います。腟内も充血して弾力が増すため、ペニスによる摩擦も受け止められ、快感へとつながっていくのです。性的に興奮していなければ、濡れもしないし充血もしないので痛みが出やすくなります。
興奮の有無以外にも濡れにくくなる理由はあって、ひとつは加齢による乾燥。更年期をすぎると性器周辺の毛細血管が細くなるので日ごろから乾燥の悩みが出てきます。結果、セックスのときも濡れにくく、また腟壁のコラーゲンが少なくなっていくに従い弾力も失われるので、摩擦による刺激がつらくなります。もっと若い世代の女性でも水分不足で脱水状態に近い状態になっているなどの理由でも体液は分泌されなくなります。誰にでも起きうることなのです。
潤滑剤を取り入れ、コミュニケーションを密に
この場合は、潤滑剤の使用をお勧めします。ローションといわれることも多いですが、なかには女性の腟内に使うには不適切な成分が入っているものも多く腟炎などトラブルの原因になることもあります(「医者が教える女体大全」では安心な商品を紹介していますので、ご参考に)。物理的にうるおいを足せばすべて解決するわけではありません。ふたりのあいだに適切なコミュニケーションがあってこそ、潤滑剤が呼び水となって体液が分泌され、性器の充血も起きて、気持ちのいいセックスが実現します。
むずかしいのは、濡れないわけではない、けれども痛いという人が少なくないということです。多くの男性は「濡れている=女性が性的に感じている証」と思っています。けれどそうとかぎらないことは、女性ならよくご存じでしょう。間違った認識をもとにハードな動きをされると苦痛しかありません。
性交痛を深刻なものにしているもののひとつが、コミュニケーション不足です。しかし女性が痛いと訴えても「たいしたことない」「そのうち気持ちよくなる」と聞く耳を持たず自分の欲求ばかりを優先させる男性もまだまだ多いです。AVで観るセックスが正解だと刷り込まれている男性が多いのが問題です。
最後に、女性もマスターベーションを通して「気持ちよくなる」感覚を身につけておくのも有効です。「セルフタッチング」という、セックスセラピーの手法です。