発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。
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発達障害の僕が発見した「いくら成功しても不安な人」が陥りがちな思考パターン

 僕は、発達障害(ADHD)と、その二次障害である双極性障害を抱えています。

 とても残念なことではあるのですが、おそらく僕の発達障害もあるいは双極性障害も完治はしないでしょう。あるいは、医療技術の大きな進歩があって完治が可能になったとしても、それでも人生を転げ落ちる不安は消えないでしょう。

 僕らは「うつや不安を克服する」とか「うつや不安に勝つ」みたいな考え方をしてしまいがちです。しかし大切なのは「うつや不安とともに生きる」ことだと僕は考えています。

成功は、依存性薬物と同じ

 僕の人生にわずかながらあった光の射した場所、人生が成功に向かっているという実感を得られたとき、あのときだけは未来への不安が薄らいだのを覚えています。

 たとえば起業の序盤、事業が上向いている頃はひとつひとつ成功を積み上げるごとに「自分は人生を逆転できるぞ」という喜びが湧き上がってきました。でも、それは結局のところ、薬物で酩酊していたようなものでした。

 商売を始めて売り上げが立つというのはとてもうれしいことです。たとえば、ある月あなたの商売は100万円の売り上げを出したとします。その翌月は150万円、そのさらに翌月は200万円。順風満帆です。そして、もうひとつ先の月で売り上げがまた100万円に戻ったときあなたは大きな不安に襲われます。人生にどこまでもついてくるこの不安は、社会的成功によって打ち払うことはとても難しいのです。もちろん、一生を安楽に暮らせる預金残高を手に入れたら話は別なのかもしれませんが、ほとんどの人の銀行口座がその数字に到達することは決してないでしょう。

 成功が続くと、今度は人生の上昇角度が鋭角になり続けないことが不安になってきます。もっと成功している誰かを見て、自分はダメだと考えるようになります。「成功」は確かに不安を薄めてくれますが、あらゆる依存性薬物と同じ問題を持ちます。すぐに耐性ができるということです。

手に入れるべきは「受け身を取る技術」

 つまり、何より重要なのは人生の谷に差しかかったとき、人生を転げ落ちたとき、そういうときに死なないように上手な受け身を取り、そしてその谷の底からもう一度歩き出すことなのではないかと僕は思うのです。そして、このどん底からの再起というのはかなりテクニック性がある。何度かの底を経験してきて、僕はそういった確信を強くしました。

 「うつになったから見える景色があった」とか「障害に感謝している」みたいな言説が僕は大嫌いです。普通に考えてうつじゃないほうがいいし、健常者のほうがいいに決まってる。ある日突然巨大なうつがやってきて、何もかも吹き飛ばしてしまう恐怖を抱えて生きたくなんかない。でも、それはそこにあるのだから仕方がない。僕はそういう風に考えています。そして、これは社会的成功で不安を塗りつぶすことを目論むことより、ずっと大切なことだとも。どれほど絶望的な状況に陥っても、残念ながら明日はやってきます。それでも生き残っていきましょう。

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