発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2020年9月10日の記事の再掲載です)。
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発達障害の僕が発見した「贅沢しているつもりがないのにお金が消えていく人」に決定的に欠けていること

必要なのは「金を稼ぐ」技術より「貧乏でもやっていく」技術

 僕は「借金玉」という名前で文章を書くお仕事をしているのですが、なんでこんな名前になったかといえばそれはもちろん借金があるからです。かつては従業員が10人くらいの会社を経営していました。そして、いうまでもないことですけれど、その会社は破綻してしまいました。

 大学を出て、一度は大手金融機関に勤務していたのですが、仕事がまるでできなかった僕は、人生の一発逆転を目指して起業をしました。出資者を見つけて数1000万円の出資を受け、一時は好調に乗ってこれまた数1000万の銀行融資を受けて事業を拡大しました。でも、その事業は僕の20代の終わりとともに破綻し、会社を清算して売れるものを全部売り払っても僕に残ったのは2000万円ほどの借金だけでした。

 ただ、幸運だったこともありました。出資者(僕のせいで数1000万円をドブに放り投げてしまった人、債権玉と呼んでいます)が、銀行融資の肩代わりを申し出てくれたのです。おかげで僕は破産を免れ、その代わり自分の会社の持ち株のすべてを出資者に譲渡し、2000万円の借用書を書きました。

 僕は会社法人名義で活動をしているので、もちろんこの本の印税も会社に入るわけですが、会社に入るお金は僕のお金ではありません。それどころか、僕の本の著作権は会社が持っていますので、僕は僕自身の書いた本の権利すら持っていません。まさしく持っているものは借金だけ、それが私借金玉でございます。何卒よろしくお願いいたします。

 そういうわけで、僕はお金を稼ぐ能力が高いとはお世辞にもいえないのですが、実は「お金に困って今日のご飯が食べられない」経験をしたことはありません。それは僕が「乏しい収入で生活を維持するスキル」を身につけているからです。これは僕の長年の貧乏生活の賜物(たまもの)で、数少ないまともな能力です。

重要な2つの概念―固定費と投資

 一方で「お金はあるのに破綻してしまう」人たちもたくさん見てきました。僕が月収6万円の暮らしを維持しているのに、1ヵ月20万円の収入があっても借金地獄に陥ってしまう友人がそれなりにいました。友人のアパートを訪ねたら、郵便受けから消費者金融の督促状があふれているあの光景はなかなか衝撃的でしたね。

 生活を破綻させてしまう友人たちの中で、「贅沢をやめられない」とか「ギャンブル依存症」みたいなタイプは(もちろん一定数いますが)決して多くはありません。彼らの問題は、

・固定費
・投資

という2つの概念が、決定的に欠如している点にありました。「自分では贅沢しているつもりはないのに、お金がどんどん消えていく」。これらが彼らの共通点だったのです。

 収入に対して家賃や通信費、あるいは交際費といった必要不可欠な経費の割合が大きすぎる。これは「固定費」の問題です。毎月コンスタントに5万円なり10万円なりの生活費の不足がある場合、生活をまるごとつくり変える以外なんとかする手段はあり得ないのですが、これを実行する人はほとんどいません。

 もうひとつ、貧乏ゆえに生活費を下げようとちまちま節約をしている人は、「投資」の有効性を理解していない場合が多い。これも大きな罠です。自炊をするためには調理器具が必要ですし、クリーニング代を節約するには洗濯機が必要です。コスト削減のためにはコストをかける必要がある。このことを、忘れてはいけません。

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