自分を変える「10の扉」をさあ、開けよう──。世界最高の創造集団IDEOのフェローによるきわめて画期的な本、『Joyful 感性を磨く本』(イングリッド・フェテル・リー著、櫻井祐子訳)によると、人の内面や感情は目に映る物質の色や光、形によって大きく左右されるという。つまり、人生の幸不幸はふだん目にするモノによって大きく変えることができるのだ。
本国アメリカでは、アリアナ・ハフィントン(ハフポスト創設者)が「全く新しいアイデアを、完全に斬新な方法で取り上げた」、スーザン・ケイン(全米200万部ベストセラー『QUIET』著書)が「この本には『何もかも』を変えてしまう力がある」と評した他、アダム・グラント(『GIVE & TAKE』著者)、デイヴィッド・ケリー(IDEO創設者)など、メディアで絶賛が続き、世界20ヵ国以上で刊行が決まるベストセラーとなっている。
その驚きの内容とはどのようなものか。本書より、特別に一部を紹介したい(こちらは2020年10月16日の記事の再掲載です)。
日常が一気に明るくなった
私はアウトドアは好きだが、大きなバックパックを担ぐのは苦手だ。だから、パートナーのアルバートに「森で1週間過ごしたい」と言われたとき、「楽しんできてね!」と返した。
でも彼が旅に出たら、その間ずっと連絡も取れなくなることに気づき、泣き出してしまった。私たちは結婚してまだ1年も経っていない新婚で、彼がいなくなったらとても寂しくなるのはわかっていた。彼が出発した日の夜は、孤独で落ち着かない気持ちで眠りについた。
翌朝、冷蔵庫を開けて、「大好きだよ!」と書かれた明るいピンクのポストイットを見つけたとき、また泣き出しそうになった──このときは喜びと、アルバートがいないのにその存在が感じられたことへの驚きの涙だ。
しばらくしてスカーフをラックに取りにいき、首に巻きつけていると、カサッという音がした。首筋に手をやると、また別のピンク色のポストイットがあり、ハートマークが書かれていた。うれしくて叫んでしまった。
その週は毎日のようにピンク色の愛のメッセージを見つけた。枕元の本のページからひらひら落ちた1枚もあれば、ノートカバーにたくしこまれた1枚もあった。それは離れていても一緒にいる気分にさせてくれる、喜びあふれる方法だった。
1つの習慣:「隠して明かす」を取り入れる
アルバートのふせんは、思いがけない場所から飛び出してきた突然の小さな驚きだったが、驚きを生み出すための別のテクニックも使われていた。
それはかくれんぼや宝探し、びっくり箱などの子どものゲームやおもちゃを支えているテクニック、「隠して明かす」だ。
カラフルな包装紙やリボンでラッピングされたプレゼントや、スクラッチ式の宝くじも、この楽しみを取り入れている。世界の多くの祝祭で、隠れていたものを露わにする儀式が行われる。ユダヤ教の過越祭(ペサハ)の儀式ではアフィコーメンと呼ばれるパンを隠しておき、子どもたちに見つけさせる。
クリスマス前には多くの人がアドベントカレンダーを使い、毎日1つずつ扉を開けて小さなお菓子や装身具を見つけながら、カウントダウンを楽しんでいる。マルディグラ(訳注:アメリカ南部などで行われる謝肉祭)のくす玉割りとキングケーキに隠された小さな赤ちゃんの人形も、よく知られた祝祭の「隠して明かす」伝統の例だ。
「隠して明かす」は、人間の生来の好奇心に訴え、探求を促す。人は窓があればのぞきこみ、ドアがあれば開き、容器があれば中身を見る。この習性を研究した科学者は私の知る限りいないが、おそらくそれは人間が進化の過程で身につけた適応行動なのだろう。
ニューヨークの名門芸術大学プラット・インスティテュートでインダストリアル・デザインの修士号を取得。世界的イノベーションファームIDEOのニューヨークオフィスのデザインディレクターを務め、現在はフェロー。8年を投じた研究により「喜び」を生む法則を明らかにした『Joyful 感性を磨く本』は世界20か国で刊行が決まるベストセラーとなった。
Photo:Olivia Rae James
自然は隠れた宝物に満ちている。硬い殻で守られたナッツや、目立たない巣に産みつけられた卵、食べられない皮に包まれた果実。私たちは、ものの周りや下や中を見たいという衝動に従うことによって、よい食事にありつける可能性を高めた、探求心旺盛な祖先の血を引いているにちがいない。(中略)。
グーグルで「斜め」を検索すると何が起きる?
思いがけない場所に鮮やかな模様を取り入れる手法も、これと似た喜びを生み出している。最近のデザイントレンドで私が気に入っているのは、レストランのカラフルな化粧室だ。
ニューヨークのレストラン、ダイムズの化粧室には、天井から床まで、陶芸家キャシー・グリフィンがブラシで手塗りした色とりどりのタイルが貼られている。レストランの地味めの内装に比べると、化粧室は別世界に迷い込んだような雰囲気がある。
最近訪れたほかのレストランも、化粧室に大胆な模様の壁紙が使われていたり、化粧室のギャラリーウォールに芸術作品が飾られたりしていた。
同じ喜びあふれる手法を使って、家の中の使用頻度の低い空間である客用バスルームを明るくしてもいい。より小さな規模では、クローゼットや戸棚の内側に明るい色を塗ったり、引き出しに模様入りの紙を敷いたりすると、開けるたびに新鮮な驚きを感じられる。
「隠して明かす」手法は、デジタルの世界でも用いられている。ソフトウェア開発者は楽しい画面や機能、いわゆる「イースターエッグ」を、いろいろなアプリケーションのコードに埋め込み、ユーザーが特定の操作をしたときに見つけ出せるようにしている。
たとえばマイクロソフトExcel 97には、特定のキーを特定の順序で押していくと現れる、フライトシミュレーターが仕込まれていた。
グーグルでは「斜め」を検索すると、検索画面が少しだけ傾く。また「zerg rush」という奇妙なフレーズを検索すると、勝ち目のなさそうなゲームが出現する。グーグルのロゴのOの文字が降ってきて検索結果を破壊してくるのを、クリックで阻止しなくてはならないのだ。ほとんどのソフトウェア機能とは違って、こうしたイースターエッグには実用性がない。ユーザーが偶然見つけ、友人にシェアできるようにつくられた、純粋な楽しみだ。
「隠して明かす」手法を使えば、朝の着替えから書類のタイピングまでの多くの日常活動に、遊び心を取り入れることができる。
そしてその影響は、一時の楽しみを超えて持続する。自分や誰かがあとで見つけられるように楽しいものを隠すことによって、リスのように、いつか見返りを得るために喜びをためていくことができる。
すると世界には目に見える喜びと、日常生活のすぐ下に潜む喜びという2つの層ができる。そして1つ喜びを発見するたびに、自分の歓喜と幸運は自分でつくっていくものだと気づくことができるのだ。
(本稿は、イングリッド・フェテル・リー著『Joyful 感性を磨く本』からの抜粋です)