新型コロナウィルスの影響で外出時間が減った今年、なんとなく日々重たいような気分を感じているという人も多いのではないだろうか。そんな中、世界最高の創造集団IDEOのフェローによるきわめて画期的な本が上陸した。『Joyful 感性を磨く本』(イングリッド・フェテル・リー著、櫻井祐子訳)だ。
著者によると、人の内面や感情は目に映る物質の色や光、形によって大きく左右されるという。つまり、人生の幸不幸はふだん目にするモノによって大きく変えることができるのだ。
本国アメリカでは、アリアナ・ハフィントン(ハフポスト創設者)が「全く新しいアイデアを、完全に斬新な方法で取り上げた」、スーザン・ケイン(全米200万部ベストセラー『QUIET』著書)が「この本には『何もかも』を変えてしまう力がある」と評した他、アダム・グラント(『GIVE & TAKE』著者)、デイヴィッド・ケリー(IDEO創設者)など、発売早々メディアで絶賛が続き、世界20か国以上で刊行が決まるベストセラーとなっている。その驚きの内容とはどのようなものか。本書より、特別に一部を紹介したい。その驚きの内容とはどのようなものか。本書より、特別に一部を紹介したい。
具体的な「もの」が喜びを生み出す
私は教授団を前に、ドキドキしながら立っていた。
私のうしろに置いた作品──ヒトデ形のランプ、丸底のティーカップのセット、カラフルな発泡体でつくった3つのスツール──を見る教授たちの顔つきは険しく、前途有望なデザイナーのキャリアを離れてデザイン系の大学院に進むという私の選択はまちがっていたのではないかと考えてしまった。
すると長い沈黙を破って、教授の一人が言った。
「あなたの作品には『喜び』が感じられるね」
ほかの教授たちもうなずいた。
気がつくと、教授たちはみなほほえんでいた。私はホッと胸をなで下ろした。プラット・インスティテュート、インダストリアル・デザイン科の最初の審査に合格したのだ。でも安堵はすぐに困惑に変わった。
喜びは、はかなくとらえどころのない感情で、見ることも触ることもできない。なのに、なぜカップやランプ、スツールといった単純な物体が、喜びをかき立てることができるのだろう?
そう問いかけたが、教授たちはためらい、口ごもり、「ただそうとしか言えない」と答えただけだった。私は礼を言って引き下がったが、夏休み前の荷造りをする間も、この疑問が頭を離れなかった。(中略)
「本能」に素直になる
最近では、環境と心の健康の間に明確な関係があることを示す研究報告が相次いでいる。たとえば日当たりのよい職場で働く人は、薄暗い職場で働く人に比べてよく眠りよく笑うことや、花が人々の気分だけでなく記憶も向上させることが、研究で示されている。
こうした発見をくわしく調べるうちに、喜びはかたちのない抽象的なものではなく、より具体的で実体のあるものに思えるようになった。長年の内省や規律正しい生活からしか手に入らない、得がたいものには思えなくなった。世界にはいつでも好きなときに訪れることのできる、前向きな感情が湧き出る泉があるのだ。(中略)
うれしくなるものには「共通の法則」がある
私は、知人はもちろん、街角で出会った人たちにも片っ端から声をかけて、「どんなものや場所に喜びを感じますか」と聞いてみた。
答えはさまざまで、「おばあちゃんの台所」や「グレイトフル・デッドのサイン入りポスター」「ミシガン湖畔の別荘のカヌー」といった、具体的で個人的なものもあれば、好きな食べ物やスポーツチームといった、文化的伝統や育ちの影響を受けたものもあった。
だがそれ以外に、個人的でも文化的でもないものがあった。