親切,健康写真はイメージです Photo:PIXTA

 昔から「陰徳陽報」──人知れず善行を積めば、必ずよい報いがあるという。その報いの本質は、自らの幸福感と心身の健康が得られることのようだ。

 香港大学の研究者らは、社会的な活動と個人の幸福感との関連を調査した211件の研究報告(対象人数は延べ19万8213人)の成果を総合的に解析。社会的な活動と個人の幸福感、そして心身の健康との間に関係があると改めて確認している。

 さらに、年齢や性別、社会的な活動の種類との関連で掘り下げたところ、たとえば「近所のお年寄りの重い荷物を、家まで運んであげた」などのさりげない行動は、組織的なボランティア活動など「フォーマル」な奉仕活動よりも、全体的な幸福感と強く関連していることが示された。

 研究者らは「こうした『別に自慢するでもない、ちょっとした親切』は、単調になりがちなフォーマルな活動よりも、自発的で多様性があり、他人を身近に感じたり、社会的なつながりを創りやすいのだろう」と考察している。

 また、若年層や現役世代は「他者への親切や社会的行動」によって、心身の健康も含め全体的に幸福感が高まる。詳しくみると、快感や利益を基盤とした主観的な幸福感より、自己実現や成長の実感、そして人生の意味を見いだすことに由来する「ユーダイモニックな幸福」を感じるという。

 一方、リタイア世代は社会的な活動と身体的な健康とが強く関連する。この世代にとっては、利他的な行動が自分の心身が健康である証しなのだろう。このほか、女性は男性よりも、社会的活動で幸福感や心身の健康を得やすいという結果が出ている。研究者は「女性=奉仕者という社会的バイアス」の影響を指摘しており、将来は性差が消えるかもしれない。

 さて、自分自身の感情から生まれる個人的な「手助け」のほうが、時に強制されたように感じる組織的な奉仕活動よりも「温かい気持ち」になり、幸福感を得やすいのは納得できる話だ。

 ギスギスした世相ではあるが、「持ちましょうか?」とささやかな手を差し伸べてみよう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)