久しぶりのスタートラインで見えた風景
休養を宣言してから3年後、あるきっかけを境に、僕はまた走り出すこととなった。
結局僕は3年間という、長い時間の休養を要した。
自分が失った何かを取り戻すためにまた走り出した。
そして、それから約6年後、休養宣言をしてから実に9年後となる2017年6月の日本選手権──。僕は出場することとなった。
その時の光景を今でも鮮明に覚えている。
僕が200メートル予選のスタートラインに立った時だった。
突然、スタンドから、これまでの人生では味わったことのないような温かい拍手と歓声が湧き起こった。衝撃だった。これまでに感じたことのない温かさを勝負の場で感じた。
そして、僕はいつの間にか自分の手と手を合わせていた。
以前、僕はレース前に手を合わせる時は決まって何かに「願って」いた。
恐怖し、懇願し、救いを求めるかのように力一杯手を合わせていた。
でも、その時手を合わせていた僕は、心から「ありがとう」と言っていた。そして、その手は今までにないほど優しく合わせられていた。
その後のレースはもう覚えていない。
結果は、8人中8着。ドベ。
でも、僕は心の底から楽しかった。いや、幸せだった。
あれほど勝つことにこだわっていた僕が、走り終わった後、幸せだった。
どんな勝利より、どんな色のメダルを手にするより幸せだった。
そして、何より「また走りたい」と思っていた。