マッキンゼーで14年間活躍し、現在「日本発の世界的ベンチャー」を生み出そうと活動をしている赤羽雄二氏は、「誰でも、確実に頭が良くなる方法がある」という。しかも、ペンとA4の裏紙を使うだけの、お金もほとんどかからない方法だ。

その詳細を記した『ゼロ秒思考』は、2013年の発売以来ロングセラーとなり、累計で17万部を超える大ヒットとなっている。

「明らかに日々の思考量や行動量が増えた」
「打てば響くような会話ができるようになった」
「嫉妬やパワハラに負けない精神力が身についた」
という声が多数届くだけでなく、現役のトップアスリートも実践してパフォーマンスの向上に効果を上げているという。

今回の記事では、『ゼロ秒思考』より、そのポイントの解説にあたる部分を編集して公開する。(2013年12月24日付け記事の再配信です)

時間をかければ考えが深まるとは限らない

 重要な課題だから午後一杯かけようとか、朝まで議論しようといったやり方を好む人が時々いる。議論を尽くそう、という考え方だ。会社によってはそれが標準スタイルだったりする。大企業よりも時間を大切にしなければいけないベンチャーでも少なくない。

 ところが、そういった会議の生産性が高く、要点を押さえているか、的確な現状把握と意思決定ができ、すぐアクションにつなげられるかというと、かなりあやしい。もちろん仕事した気にはなる。徹底的に議論すると、充実した一日を過ごしたような気にはなる。ただ、それで今の企業に必要な意思決定のスピードを出せるのかというと、はなはだあやしい。

 だいたい、午後一杯とか夕方から深夜、下手をすると明け方まで議論すると、出席者だけでも莫大な会議コストがかかる。しかも体力、気力を使い果たすので、回復に相当の時間が必要だ。それだけではなく、会議のあいだ中、議論に参加していない部下が待ちぼうけを食らうのが現実だ。「部下は当然自分の仕事をやっているはずだ」と上司は思っても、重要なミーティングであるほど結果が明確に出るまでは仕事を進めづらい。

 もっと悪いことに、幹部が経営合宿やビジョンミーティングで長時間席を空けると、鬼の居ぬ間に、ということで、仕事をほとんどせずにぶらぶら待っていることもありがちだ。いつもがみがみ言っている上司、部下への権限委譲をうまくできていない上司ほど、こういう状況を作り出す。

 ということで、組織全体が巡航速度に回復するまで全部で何日かかるのか、恐ろしい。巡航速度に回復しただけでは、失われた延べ数百時間のロスは挽回できない。幹部が長時間かけ議論した気になるために、ここまでの無駄をすることが正当化できるとは私には思えない。肝心の議論の内容は、時間をかけた割に、いや、むしろ時間をかけた結果、極めてアバウトだったりする。気持ちは高揚しているかもしれないが、内容は別だ。時間をかければ考えが深まるとは限らないのだ。

 一人の仕事でも同様だ。特にデスクワークの大半は悩んだり、堂々巡りしたりで時間を浪費する。こうしようか、ああしようか、こう言ったら上司がどういうだろうかと悩みは尽きない。2週間後のクライアントミーティング向けに企画書を作ることになっても、どうしようか悩む。決めてもまた少し変えてみる。目次・全体構成にまた手間どる。数日してなんとか企画原案をひねり出しても、どうしてもしっくりこなくて何度も何度も書き直してしまう。前回上司に怒鳴りつけられた記憶がありありとしているので、おいそれと相談にも行けない。そうこうしているうちに、タイトルもちょっと違うかもしれないと悩み出す。ああ、もうあと2日しかない。また徹夜するしかないか……こういう経験をしたことはないだろうか。

 まったくないという方は素晴らしいが、私の経験上、ほとんどの方が多かれ少なかれ悩みつつ、手探りで仕事をしている。もやもやを抱えつつ進めている。それを上司や先輩が助けてくれることはあまりない。ダメだしはするが、考えのプロセスを丁寧に教えてくれ、どうやったらもっとうまく考え、企画できるか教えてくれることはまずないだろう。当然、アウトプットの質が急激に上がるはずもない。

 これは会社だけではなく、自分にとっても大変な損失だ。楽ができるからよい、というような問題ではない。こういうやり方ではろくに成長しない。成長しなければ、人生は本当の意味で決して楽しくない。

 成長しないとか楽しくない、というだけならまだしも、のんびりやっているうちに職を失うリスクが最近は非常に高まっている。大企業ですら、終身雇用はほとんどない。今回のリストラの対象にはならかなったと喜んでいても、次回かもしれないし、会社そのものがつぶれてしまうことも起こり得る。その時、安逸な仕事の仕方をしていると、再就職のチャンスも非常に小さくなる。

できる人、優れた経営者は即断即決

 このように、ゆっくりと考える人が多いのだが、ごく一部の優れた人は、高速で動き大きな成果を出す。時間を1分も無駄にしない。素晴らしいスピードで情報収集をし、意思決定をし、電光石火でアクションに移している。かなりのボリュームの企画書を驚くほどのスピードで仕上げることもできる。しかも、時間をかけるとますますよい内容に仕上げていく。

 ただ、そういう人は本当にごく一部だ。ほとんどの人は延々と時間をかける。しかも、急いでも急がなくても思ったように考えが深まらない。時間を2倍かけると2倍よい内容を考え出せるかというと、まずそんなことはない。

 どうしてこういう差が生まれるのか。

 一つは、前章でも述べた訓練の欠如だ。どうすれば効率よく進めることができるか、素早く考えをまとめ、分析をし、深掘りをし、わかりやすく整理して仕上げられるか、周りを動かして一気に成果を出せるか、という訓練が学校でも会社でもほとんどない。

 新入社員は、書類の書き方や礼儀作法については教わることが多い。ただ、瞬時に情報を把握すること、問題点を整理すること、解決策を考えることなど、「考える」という基本作業に関してはほとんどトレーニングされない。

 私のいたマッキンゼーでも、仕事ができる人はそもそもセンスがいいが、それに加えて仕事ができる先輩からの伝授という形で匠の技が継承されていく。こいつはできないと思われると、技の伝授があまりされず、「普通の人」「できない人」の烙印が押されたままになる。ある程度の資質があり、それを見せることができて、たまたまできる組に入るとラッキーだが、そうでないとなかなか挽回しづらい。特別な努力と工夫をして成長できる人ももちろんいないわけではないが、最初のダッシュがかなり重要になる。