競争の中で生きるすべての人へ
僕はこれまで陸上競技短距離走、いわゆる「かけっこ」というスポーツに取り組んできた。
普段は意識しないかもしれないが、スポーツはたくさんの要素が複雑に絡みあって構成されている。
勝ち負けの他にも、人間関係、目標、夢、メンタル、師弟……。スポーツとは、勝敗や記録だけのものではなく、本当はもっと多面的なものなのだ。
僕自身、スポーツという世界を通して、さまざまなことを深く体験し、そこでたくさんの感情や哲学さえも学んだし、今ももちろん学んでいる。そして、そういったことを誰か別の人間に伝えたり、ちびっ子たちに「夢とは何か?」と話す機会も増えてきた。
僕はこれまで、走ることでしか自分という人間を表現してこなかったが、走る以外のかたちで、何かを表現し、伝える機会が自然と出てきた。
そんな時に、今回、「本」を通して僕のことを伝える機会をいただいた。
なんだか最初は照れくさかった。だけど、僕が過酷な競争の世界でもがきながら考えてきたことが、アスリートに限らず、いま苦しい境遇にある人や、これから競争の世界に出ていこうとしている人たちに、少しでも役に立てばと思って、引き受けさせていただいた。
そして、この本は、あくまでも僕自身の体験を軸にして書き進めた。
できるだけ「現実」を描こうと心がけたので、決して明るい話だけではありません。
ただ、それも書いていくうちに何だか楽しくなってきて、書きながら誰かと話をしているような気持ちになりました。だから、気負わずに読んでみてくださいね。
どうぞ、最後まで僕の話にお付き合いくださいませ。
では、はじまり、はじまりー。
(本稿は、末續慎吾著『自由。──世界一過酷な競争の果てにたどり着いた哲学』の内容を抜粋・編集したものです)