地政学的な問題が少なく、経済的なメリットがあれば直ちに増産可能といわれている米シェールオイルでも、増産決定から実際に増産が始まるまで6~9カ月程度の時間を要する。在来型の大規模油田は余剰生産能力があれば話は別であるが、新たに油田を掘らなければならないとすればそれこそ数年がかりだ。こういった生産要請と生産開始までの「時間差」が価格の変動を生む。

 また、あまりに原油価格が低迷している場合、高いコストを払ってまで再生可能エネルギーを使うのか?という議論が出てきてもおかしくない。特に経済が低成長となった場合、再生可能エネルギーに対して税金を投入することに反対する人が、低所得者層を中心に出てくるのではないか。化石燃料価格の低迷は再生可能エネルギーへの移行も遅らせる可能性がある、ということだ。

 また、脱炭素が進むと、中東の産油国の政情が不安定化する可能性は高い。サウジアラビアもムハンマド皇太子がエネルギー以外のビジネス開発に乗り出している。だが、政府ファンドの資金で企業買収や株への投資は行っているものの、石油にとって代わる新しい産業が育っているわけではなく、道半ばだ。

 オイルマネーを使って国を統治してきた産油国は多く、それを否定することにもつながりかねない脱石油は、そう簡単には進まないだろう。その結果、原油価格が下落すると財政状況が悪化する従来の構造は変わらず、国内の政情はより不安定化し、それに伴う原油の供給途絶リスクも高まることが予想される。

 これまで見てきたように化石燃料需要は減少トレンドにあると予想されるが、全く使わなくてよい状態になるとは考え難い。結果的に需要を満たすだけの生産が困難になる可能性は十分にある。したがって、原油価格はしばらく低迷するが、今以上に価格の変動性は高まるのではないだろうか。

(マーケット・リスク・アドバイザリー代表 新村直弘)

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