食糧、Wi-Fi、そして医療
コロナ禍下の多様な「炊き出し」メニュー
全世界的にコロナ禍が収束する気配が見えない中、経済面への影響も深刻化と拡大を続けている。もともとホームレスを対象として開催されていた全国各地の炊き出しには、若年層や女性の姿が目立つようになってきた。若く健康で、自助努力の限りを尽くしていても、コロナ禍から身を守れるとは限らないのだ。
東京・池袋を中心に活動する特定非営利活動法人「TENOHASI」(てのはし)は、「世界の医療団」と共同で、月に2回、東池袋で炊き出しを行っている。会場は、サンシャインシティの近くにある広い公園だ。冷たい雨が降り続いていた10月10日、それでも行われていた炊き出しには、170人近い人々が距離を保ちながら並んでいた。
晴天なら200人から250人の参加者があるということだが、スタッフたちは口々に「こんな天気なのに」と驚いていた。コロナ禍以前、同様の天候の日の参加者は100人以下のこともあったという。炊き出しというイベントは、寒くて雨の止まない日だからこそ命をつなぐための支援を切実に必要としている人々の姿を、否応なく可視化する。
「炊き出し」という名称ではあるものの、時節柄、その場で調理して湯気の立つ温かい食事を提供することは難しいため、温かい弁当や食糧品が配布されている。そして、提供されるのは食糧だけではない。広い公園の中に、ぽつりぽつりと仮設テントが設置され、生活福祉相談や医療相談が行われている。携帯キャリアの電波を利用できない事情のある人々のために、Wi-Fiスポットも用意されている。
特に充実しているのは、医療相談だ。案内の看板には、「歯科・こころの相談・内科」という文字が並ぶ。医療に簡単にアクセスできない状況にある人々の場合、最も切実な健康上の問題は、しばしば歯や口腔にある。この事情は、路上生活者もネットカフェ難民も精神科長期入院患者も同様だ。
「こころの相談」こと「こころと身体のよろづ相談」コーナーでは、練達の精神科医が待機している。しかし、メンタルヘルスに関する課題を抱えた人々は、医療に傷つけられた経験を持っていることが多い。また、「精神科」という名称に対する抵抗感や偏見も、世の中一般と同様に存在する。そこで、「精神科医療相談」とは掲示されていないわけだ。