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新型コロナウィルスの影響で外出時間が減った今年、なんとなく日々重たいような気分を感じているという人も多いのではないだろうか。そんな中、世界最高の創造集団IDEOのフェローによるきわめて画期的な本が上陸した。『Joyful 感性を磨く本』(イングリッド・フェテル・リー著、櫻井祐子訳)だ。
著者によると、人の内面や感情は目に映る物質の色や光、形によって大きく左右されるという。つまり、人生の幸不幸はふだん目にするモノによって大きく変えることができるのだ。
本国アメリカでは、アリアナ・ハフィントン(ハフポスト創設者)「全く新しいアイデアを、完全に斬新な方法で取り上げた」、スーザン・ケイン(全米200万部ベストセラー『QUIET』著書)「この本には『何もかも』を変えてしまう力がある」と評した他、アダム・グラント(『GIVE & TAKE』著者)、デイヴィッド・ケリー(IDEO創設者)など、発売早々メディアで絶賛が続き、世界20ヵ国以上で刊行が決まるベストセラーとなっている。
その驚きの内容とはどのようなものか。本書より、特別に一部を紹介したい。

現代人は「喜び」を軽視しすぎている

 本書で紹介している「新生の美学」には、すべての喜びの美学の根底にある一つの真理が、おそらく最も明白に表れている(「新生の美学」とは、日の出や日の入り、桜などの「繰り返し」や「立ち直り」「心機一転」を人に本能的に感じさせる美的特徴)

 その真理とは、喜びへの衝動は、すなわち生への衝動だということだ。

 祖先が初めて発見した果実の鮮やかな色と完熟度とのつながりから、S字カーブの美しさに至るまでのすべてに、喜びと生とのこの相互関係が見られる。

 喜びを感じ取る能力は、私たちを繁栄に役立つ条件に誘導するという特別な目的を持って進化した。喜びは、活力と刺激、繁栄をもたらすものごとに向かって私たちを導く、心の中の案内役なのだ。簡単にいえば、喜びとは生きがいである

 それでもなぜか、喜びは付け足し──ケーキの本体ではなく、トッピング──のようなものとみなされている。生活は「必要なもの」と「欲しいもの」とに手際よく分類され、喜びが生存に不可欠なものごとを引き立たせるためにあることは忘れられ、すべての必要が満たされて初めて許される、とっておきの贅沢とみなされている。

 問題なのは、喜びがなくても生存は可能かもしれないが、繁栄はあり得ない、ということだ。

 もしもめったに笑ったり遊んだりすることがなければ、もしも魔法の瞬間や、超越のひらめき、祝いの爆発を経験することがなければ、どんなに栄養が行き届き、どんなに安楽な生活をしていても、本当の意味で生きているとはいえない。

 喜びなど取るに足りないという考えに立てば、喜びは生活の中心からたちまちこぼれ落ちてしまう。

 そうして仕事は何かをつくりだす喜びではなくなり、生産性を高めるためだけの果てしのない取り組みになってしまった。学校は探究や冒険ではなく、成績向上だけをめざす場になってしまった。喜びは私たちがほとんどの時間を過ごす場所から組織的に締め出されてしまった。

 同じことが物理的環境についてもいえる。建物は喜びを育む場所ではなく、ステータスやイデオロギー、ブランドアイデンティティを表出する場になってしまった。喜びは遊び場や海辺、自然保護区、お菓子屋など、世界の縁に追いやられ、残りの世界では活力が失われつつある。

1つの習慣:毎日に「小さな喜び」を取り入れる

 環境を新生すべきという考え方が、最近広く受け入れられている。人間が脆弱な生態系に与えた損害を修復する方法については議論の分かれるところだが、人間が地球上で生存し繁栄し続けるためには、環境を新たに生まれ変わらせることが避けて通れないということは衆目の一致するところだ。

 同じように、いま、人間がつくった世界も「新生」させることが必要だ。すでに進行している自然の新生と並行して、人工の世界の新生を進めるのだ。喜びを生活の中心に取り戻すこと、私たちの生活を生き返らせることが必要である。

 新生のすばらしい点は、生存と繁栄をがむしゃらに求める生命の推進力に後押しされた、独自の勢いを持っていることだ。

 生命が増殖するのと同じで、喜びも増殖する。喜びには伝染性があり、繁殖力の強い雑草にも負けないほど効率よく拡散する

 本書で紹介してきた「壁に鮮やかな色を塗る」「街中のパーキングメーターを編み物でくるんでしまう」「一本の花を飾る」といった小さな取り組みが、上昇スパイラルを生み出し、地域社会や近隣、生活全体を変えていく。

 世界を救うことは大変な難題だが、新生は気の遠くなるような取り組みではない。

 小さな種が大きな実になることを、新生は教えてくれる。そしてこの本を書き始めた8年前には思ってもいなかったことだが、私たち自身の喜びの種が世界全体を生まれ変わらせる、という考えは、夢物語ではないのだ。

(本稿は、イングリッド・フェテル・リー著『Joyful 感性を磨く本』からの抜粋です)