なぜドラフトを廃止しないのか

 それでも「ドラフトを廃止しよう」という声は、野球界からまったく上がらない。セ・パ両リーグの人気が拮抗し、巨人一色のプロ野球でなくなったいまこそ、ドラフトを廃止する好機ではないかと思うが、なぜだろう?

 プロ野球関係者に取材してみると、「ドラフトをなくしたら、明らかに不正な競争が起こるからそれはダメだ」との声を聞いた。「いまは選手がみんな携帯電話を持っている。スカウトが選手と直接連絡できる。間に監督や部長が入るならまだ秩序も保てるが、直接交渉になれば、裏取引が横行するだろう」というのだ。

 数年前、自由獲得枠があった時期に規定以上の契約金を支払った事実が露呈して問題になった。ドラフト前から小遣いを払うなどしていた実例も明らかになった。そうしたあしき前例があるため、「くじ引きで自分たちを縛ることが健全な選手獲得の維持には必要だ」という認識がプロ野球界には根強くあるようだ。何のためにスポーツで人格を磨くのか?と問いたいが、お金の絡んだプロ野球ビジネスの実情がそれだと言われたら、残念ながら返す言葉がない。

 だが、そのような後ろ向きの理由からドラフト制度を維持する傍らで、巨人が冒頭に触れた「ドラフトを逆手に取った新たな手段」を講じて戦力強化を図っている。巨人の大量指名は合法だから、それ自体非難の対象ではないが、他球団が巨人の思惑に敏感でなければ、またもプロ野球は「不均衡」な状況に進みかねない。

 育成で顕著な実績を上げているソフトバンクの成功要因は、ただ大量に補強したからではない。3軍体制を確立し、施設を整え、球団の手で未完の大器を1軍で活躍する戦力に育てる覚悟と意志が強くみなぎっている。本来、他球団が学ぶべきはこうした方向性ではないだろうか。ドラフト会議のくじ運に球団の命運を懸け、アマチュア球界が育てた一流選手を頂戴してシーズンを戦おうという便乗方式ではあまりに志が低い。

 日本ハムが今年は道産子選手を1位指名したが、本来なら、小中高校生年代の選手もファイターズ傘下のジュニアやユースのチームで育成し、彼らがやがてファイターズの中核を担うビジョンだってあっていいはずだ。ところが、ドラフト会議がある限り、そのような展望は「無駄な努力」と思われても仕方がない。

 プロ野球界が誰もドラフト廃止を言いださないのは、不正な競争をあおらないためだけでなく、くじ運さえ良ければ球団が努力を怠っても一番人気の選手を獲得できるという安易な道に浸っているからともいえないだろうか。

 有望選手が、球団の恵まれた施設やコーチングスタッフ、指導方針、過去の実績、海外球団との提携、待遇など、すべて吟味した上で「入りたい」と願う球団であり続ける努力は、ドラフト会議がある限り、必要ない。合宿所が古くても、コーチたちの意識が旧態依然として高校や大学で培ったトレーニングの方向性と真逆だとしても、いまはドラフト会議で決まった球団にしか入れない。そんな理不尽な仕組みをいまだに続けているプロ野球に健全な未来はあるだろうか。

 幼い頃からの「プロ野球選手になりたい」という夢を人質に取って、職場環境の整備や向上をおろそかにする球界が続く限り、野球以外のスポーツを選ぶ親子が増えるだろうし、海外に針路を求める有望選手が増えるのは当然の流れだ。ファンもまた、ドラフト会議をイベントとして楽しむことに慣れて本質に目を向けなければ、大好きなプロ野球の活況を遠からず失うはめになるかもしれない。

(一部敬称略)
(作家・スポーツライター 小林信也)