将来の経済ビジョン見えず
スカスカの産業政策

 本来、コロナ禍から経済を立ち直らせ再び成長軌道に乗せるためには、感染拡大防止を第一義に考えながら、将来の日本経済をけん引する新産業をどう育てるかにかかっている。

 だが菅政権が打ち出した経済の目玉政策の特徴は、極めて視野が狭いことにある。

 菅首相は7年半にわたって官房長官として安倍政権を裏方で支えてきたが、その間は、森友・加計問題や桜を見る会などの収拾に終始し、多くの国民を説得する将来の社会や経済のビジョンを立てる能力が磨かれてきたとは言い難い。

 実際、首相の口からは、人口減少や高齢化が進むなかで日本や日本経済の将来展望が具体的に語られることはない。日本の産業衰退の原因を指摘し、どのような具体的な立て直し策が必要かを語ることが求められているのだが、それはなされない。

 菅首相は、総務相の時に「ふるさと納税」創設で「剛腕」をふるったが、本格的な閣僚経験は総務相以外にないゆえに、出てくる政策はほとんど総務省案件が目立っている。

 就任早々に打ち出した携帯料金の引き下げやデジタル庁設置などは将来を見据えた産業戦略とは言い難いし、地方銀行や中小企業の統合再編促進という方針にしても何か新しい産業革新をもたらすとは考えにくい。

 総務省案件である携帯料金の引き下げについては、時を合わせたかのように、NTTがNTTドコモを完全子会社化した。ライバルの携帯他社に比べてシェアや収益で差をつけられているのを、再びNTTグループに統合することで巻き返しを図ろうということのようだ。

 しかし、NTTは財務省が33.93%の株主であることを考えると、NTTドコモを完全「国有化」することによって、政府の命令で携帯料金を引き下げ、ドコモのシェアを上げることになる。だがこれは菅政権が他方で打ち出している規制緩和政策と根本的に矛盾する。

 結局、携帯料金の引き下げは、NTTが携帯各社が使っている送信網の利用料金を引き下げ、格安スマホの料金だけが引き下げられるという看板倒れに終わりそうだ。

「デジタル庁」の設立も、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)にはまったく太刀打ちできなくなっている日本の情報通信産業を立て直す方策は見えない。

 マイナンバー(社会保障や税に関する個人番号制度)の普及促進が前面に出て、個人情報保護などのセキュリティーは不十分なまま省庁の縦割り打破が最優先の目的かのように何でも詰め込もうとしている印象が否めない。

 日本経済の立て直しに本当に必要なのは、米国や中国企業が開発や実用化にしのぎをけずるクラウド・コンピューティングや5Gでもはるかに後ろに置かれている日本の情報通信産業の競争力強化や、エネルギー革命に対応し再生可能エネルギー普及のために小規模電力をIoTで調整するスマートグリッドの開発などだ。

 東京オリンピックの開催によって総選挙までは経済を持たせることができても、オリンピックが終われば、株価や不動産バブルを生み出すネタもなくなる。その時、コロナ感染防止の不徹底と産業衰退の深刻さが改めて露呈することになるだろう。

(立教大学特任教授 金子 勝)