
金子 勝
少数与党となった石破政権の当面の課題は、野党との「政策協力」の下での経済対策のとりまとめだが、物価対策は低所得層の食費や光熱費、ガソリン代などの負担軽減を中心にするのが王道だ。給付付き税額制度や消費税の軽減税率拡大に向けた制度整備をする必要がある。

為替と株式市場は為替介入や日銀の追加利上げなどでこの1カ月余り、かつてない乱高下となっているが、激動を増幅したのが海外投機マネーによるコンピューターを駆使した高速先物取引だ。貿易赤字や巨額の政府債務などの実体経済の弱みを抱える日本は投機に狙われやすくなっている。

政府の二度の円買い介入実施にもかかわらず再び円安がジリジリと進むのはFRBの利下げ後退観測だけが理由ではない。経済衰退や防衛費増額などによる財政赤字膨張で日銀はインフレでも金融緩和を続けるしかない袋小路に入っていることを投機筋が見透かしているからだ。

GDPはドイツに抜かれて世界4位に転落、実質GDPも低迷が続く中で日経平均株価は上昇を続ける「奇妙」を支えるのはアベノミクスに象徴される超金融緩和と株高政策だ。長年の“ゆでガエル経済”で成長力は高まらないまま株価だけがバブル状態で、史上最高値の足元は脆弱だ。

政府が10月にまとめる経済対策は高インフレと低金利を維持し、それによる税収増で物価高対策や賃上げ促進を図るもので岸田政策の根本的矛盾を象徴する。「インフレ課税」路線で政府債務は減るが家計の負担は重くなるばかりだ。

歴史的なインフレ局面でも岸田政権のマクロ政策はデフレ脱却を掲げ財政出動と異次元緩和を続けたアベノミクスと変わらないままだ。誤った政策で「見えない増税」と実質賃金低下、産業衰退が続き日本経済はこのままではジリ貧だ。

日本では生産性基準原理を皮切りに大不況のたびに賃金が上がらない“仕掛け”が導入されてきた。金融政策で賃金を上げるのはもともと無理で、制度的構造的要因を変えない限り「構造的賃上げ」はおぼつかない。

アベノミクスを改めない限り円安、物価上昇は止まりそうにないが、国葬問題に象徴されるように岸田首相は安倍離れができず、自縄自縛(じじょうじばく)の状態だ。米景気減速で円高に戻るという声もあるが、産業の空洞化・衰退が進んでおり期待薄だ。

アベノミクスは異次元緩和で株高や円安を演出したが、産業競争力や実質賃金は下がり続け、財政金融を破綻状態にした。アベノミクスの「負の遺産」を直視しプランBの経済政策を打ち出す時だ。

分配重視を掲げたはずの岸田首相の「新しい資本主義」はアベノミクスの「三本の矢」を盛り込んだ「骨太2022」に象徴されるようにトリクルダウン路線に逆戻りだ。格差拡大が続く可能性がある。

輸入価格急騰を円安が加速させるが、20年ぶりの円安の背景には日銀の緩和政策がある。財政赤字の利払い負担などへの影響から低利政策をやめるにやめられず、円安も物価上昇も止められない袋小路の状況だ。

オミクロン株の感染急拡大で政府は、重症化リスクの低い人には受診せず自宅療養できるようにする方針を決めた。だがこれでは検査を徹底しないまま経済との両立もできなかった失敗をまた繰り返す。

原油価格の急騰でスタグフレーションの懸念が強まるが、岸田政権の経済対策は一時しのぎで、新たな状況からずれたものだ。日銀が低利で財政支出を支える政策運営も限界だ。

菅首相の「出馬取りやめ」で乱戦模様の自民党総裁選は総選挙が迫る中、「選挙の顔」選びが優先されている。だがまずは安倍・菅政治の総括やコロナ対応や成長戦略の失敗の検証がされるべきだ。

東京五輪を約3週間後に控え、感染再拡大の状況でワクチンの職域接種の応募受け付けが停止され、自治体でも供給不足が表面化した。ワクチンを受けられる人とそうでない人の不公平も深刻だ。

菅政権が発足して半年になるが、コロナと経済の両立をはじめデジタル社会やグリーン社会実現などの目玉政策は軒並み頓挫しかかっている。既得権の岩盤を抱えたまま古い政治手法が踏襲された限界だ。

コロナ感染拡大が止まらず、政府は緊急事態宣言を再発令、営業時間短縮要請の実効を上げるため罰則を導入するという。だが徹底した検査をせず甘い見通しで後手の対応に終始してきた政府の責任を棚上げするものだ。

新型コロナ感染の「第3波」襲来で政府は「Go To」事業の見直しを決めたが、感染防止と経済再開の両立を言いながらPCR検査の徹底や陽性者の隔離・追跡という基本的な感染防止策をなおざりにし経済を優先した当然の帰結だ。

安倍首相が残した「負の遺産」はアベノミクスによるものだけではない。コロナ対策でもPCR検査の不徹底から感染防止も経済回復もあぶはち取らずの泥沼だ。不良債権処理などの教訓は生かされないままだ。

新型コロナウイルス問題の追加支援策を盛り込んだ第2次補正予算は、10兆円の予備費や給付金の「中抜き」に象徴される不透明が際立つ。巨額の財政支出が本当に必要なところに回るのか、疑念が残る。
