そして、ガイドライン作成時に、もう一つ忘れてはならない視点は「常識」だ。

 寝不足の女性にかける言葉の事例を先に述べたが、同じ状況で「何だ寝不足か、ただでさえ顔色悪いんだから大事にしろよ」はいい。しかし、こういったら、どうだろうか。

「何だ寝不足か、顔色悪いぞ、ただでさえ、ブスなんだから気をつけろよ」

 当然、レッドカードである。言われた女性は不快に思う可能性が極めて高い。

 しかし、少し考えてみてほしい。日頃の会話で、挨拶代わりに「ブス」という言葉を使っていたら、どうだろうか。声をかける男性側も本当に気のいい人であり、本当に体をいたわる思いが入っている場合もある。

 常識というのはやっかいなもので、言葉尻だけからだけは判断できない。言われた場所、時、周囲の環境、その人の声色、その人とのそれまでの関係などが、全て総合的に判断されていうのが「常識」なのだ。ガイドラインで一律的にラインを引けば良いものでもない。

セクハラ被害者は
女性だけではない

 セクハラは、男性の専売特許ではないことも付言しておこう。最近は、女性から男性へのセクハラも問題視されている。

 男性はプライドが高い人も多いので、被害状況はあまり表に出てこないのだが、筆者が普段の弁護士業務で結構、被害の実態を聞く。多いのは、年齢も力もある程度上の女性が、新任社員を可愛がりすぎて、ハラスメントになるということがある。

 道家の思想で、「大道廃れて仁義有り 恩愛滅びて忠孝起こる」というものがある。「人が人として自然に守るべきガイドラインがわからなくなって来ると、人工的にそのガイドラインを作らなければいけない」という皮肉だ。

 もはや男性が、女性が、ではない。ガイドラインを作って職場に周知徹底するのもいいが、基本は人が人として社会で生きていく以上、他人との関わりにおいて常に相手を思いやり、相手の立場で常識ある行動をとるという姿勢だ。皆が本心から人を思いやり、人の立場に立ち、暖かい心で接している職場に、セクハラは起きないはずである。


<弁護士ドットコムとは>

弁護士ドットコム」は“インターネットで法律をもっと身近に、もっと便利に。”を理念に、現在4000名を超える弁護士が登録する日本最大級の法律相談ポータルサイトです。弁護士費用の見積比較の他、インターネットによる法律相談や、弁護士回答率100.0%(※)の法律特化型Q&A「みんなの法律相談」を運営。累計法律相談件数は 20万件を突破しています。2012年4月12日より、独自の法的ナレッジを活かしたニュースコンテンツ「弁護士ドットコムトピックス」を提供開始。話題の出来事を法的観点から解説した記事が大手ニュースメディアのトップページに取り上げられるなど、注目を集めています。(※)2012年8月22日現在


<執筆者プロフィール>

 

松江仁美/まつえ・ひとみ

1980年中央大学法学部卒業。90年司法試験合格。93年弁護士開業。97年松江仁美法律事務所開業(現・淡路町ドリーム法律事務所)。離婚相談件数は1000件以上、解決事案数は400件を超える。弁護士登録以来、一貫して「町医者でありたい」ということを胸に、日々弁護士業務に奔走する。淡路町ドリーム法律事務所所長。