――村上さん自身の創作活動にも、コロナは影響を与えるのでしょうか。

 それはもちろんです。人は空気を吸って生きているのですから、空気が変われば体の組成も変わりますよね。ただ変化によってどういう作品が実際にできるのかは、できてみないと分からない。

 こういうときの作家としての「対処の仕方」は二つあります。一つはそのもの自体を書くということ。今回だったらコロナで何が変わったのか、具体的に書いていくのです。

 もう一つは起こったことをいったん自分の意識の中に沈めて、それがどういう形で出てくるか見定めるというやり方。これは時間がかかるし、どんなふうに出てくるのか、全然予測もつかない。

村上春樹書斎ステイホームスぺシャルを収録した時のセット。右腕は春樹さんのものコロナ禍の混乱のさなかの5月、TOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」を自宅の書斎から放送した。愛用のターンテーブルを使って、聴く人が明るくなれるような楽曲を流した 写真提供:村上事務所

 どちらのやり方もそれぞれ大事ですが、僕はどちらかというと後者を好む方です。意識してこう変えよう、こうしようというものではなく、無意識の、意識下の動きでできるものに、僕は興味があるのです。

 僕自身の20年の変化を一つ挙げるなら、海外に行かなかった分、ラジオ(村上氏がDJを務めるラジオ番組「村上RADIO」、TOKYO FMで不定期放送)がきちんとできた。これまでなら1年の3分の1は海外にいましたので、なかなかしっかり放送できませんでした。

――大みそかには年越しの生放送を予定しているそうですが、そこにはゲストとして山極寿一さん(京都大学前学長)と山中伸弥さん(京都大学iPS細胞研究所所長)を迎えるとか。この人選は村上さんによるものですか。

 そうです。以前からこの2人とはよく一緒にご飯を食べ、仲良くしているのです。今回の生放送は京都のスタジオでやるというので、真っ先にこの2人の顔が思い浮かびました。

――山極さんといえば日本学術会議を巡る大きな議論の渦中にいた人物です。この議論も、20年の日本に非常に大きなインパクトをもたらしましたが、村上さんはどう見ていますか。

学術会議問題のまずさは
とんでもない意見を言う人を排除したこと

 僕は学者だとか芸術家だとかいった仕事をする人は、どちらかというと浮世離れしていなければならないと思っています。片足は地面に着いているけれど、もう一方の足はどこか別の所に突っ込んでいる。それぐらいじゃないと、そもそも学者や芸術家にはなれません。

 そしてこういう人の意見は、世の中にとっても大事なのだと思っています。「一歩、向こう側」に足を置いている人の意見がね。なぜならそういう人の意見は必ず、「固まった意見」に風を吹き込むのですから。つまり、政治家のような人が発する、世の中の「ある種の総体としての意見」を崩すわけです。

 だからそれを「総体の意見とは違うから」とか、「現実離れしているから」とか言ってどんどん排除していくと、世の中が固まってしまいます。