著者からのメッセージ

「Amazon、金融に進出か?」─Amazonが創業された2000年前後にこのような状況を予想していた人は少ないだろう。その創業20年ほどの企業の時価総額は今や1兆ドル(日本円で100兆円)を超え、創業80年余りのトヨタの25兆円を大きく凌ぐ規模となった。しかも、その影響力は増すばかりだ。

 かつて、Googleの会長だったエリック・シュミットはこう語った。「今ガレージで創業を考えているスタートアップが一番怖い」と。次の覇者となる企業はどこから生まれるのだろうか。どの企業も業界の壁を簡単に越えてくる時代だ。世界を大変革させる可能性のあるスタートアップ企業について情報を得ることは、経営層、政策立案者、ビジネスマン、誰にとっても重要性を増している。

 筆者は投資家として世界中を飛び回り、さまざまなスタートアップに投資を続けてきたが、日々英語でグローバルなビジネス情報に触れている人にとっては当たり前の大型スタートアップに関する情報が、日本語ではほとんど取り扱われていない、少なくともまとまった形になっていないという状況に大きな懸念を抱いていた。そしてそのギャップは新型コロナによってさらに拡大したように思える。こうした状況を改善するために生まれたのが、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』のコンセプトだ。

 世界の最先端のビジネスは、優れたビジネスモデルとテクノロジーを掛け合わせたところに生まれる。ビジネスモデル、テクノロジーのどちらか一方だけの理解ではその全体像を把握することはできない。スタートアップを技術的な側面と経営戦略的な側面から分析し、さらに地政学的な情報も付け加えたら、ビジネスの「今」が立ち上がってくるのではないか? 本書ではそんな狙いで、世界各国の注目すべきスタートアップをピックアップした。全てのスタートアップを網羅するのは不可能だが、これから注視しておくべき会社やトレンドを最低限おさえたつもりである。

 日本は第2次世界大戦後、焼け野原から復興を果たし、そのころ創業されたベンチャー(今で言うスタートアップ)が高度経済成長の波に乗って大きな発展を遂げた。そしてアメリカに追いつき追い越せと必死で働いて、自動車や、ゲーム、ウォークマン、テレビ、半導体など、さまざまな分野で世界一の座を占めることもできた。今の若い人にとっては信じられないことかもしれないが、「シリコンバレー」の基幹産業だった半導体製造において、日本がアメリカをしのぎ、世界一だった時期があったのだ。

 日本の後塵を拝したアメリカは、その際に日本から「カイゼン」をはじめとする経営改革の手法を学んだ。2001年、Googleが最初に設立した海外法人は日本だったことをご存じだろうか? 当時は日本の携帯電話が世界の最先端を走っていた。アメリカの貪欲に学ぶ姿勢が今の勢いにつながっている。

 海外で起きていることが必ずしも正解というわけではない。しかし、明らかに日本はいま一度外から学ぶ姿勢を持たなければならない時期にきている。インターネットが発達したことによって、日本にいながらにして日本語で断片的な海外の情報が入手できるようにはなったが、「わかってるふう」な人は多くても、全体を捉えたうえで、その情報を日々更新している人はそう多くはない。

 本書が新規事業や、スタートアップでの成功を望む方の一助になれば、筆者にとって望外の喜びである。