米国、中国、インド、欧州、東南アジア、そして日本――世界を代表する50社超の新興企業と、その革新を支える「技術」「ビジネスモデル」を網羅した決定版として話題の、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』
今回は同書より、アマゾンの実店舗「Amazon GO」の対抗馬となっているスタートアップを紹介する。

競合と比較して際立つ、導入コストの低さ

 2018年1月、Amazonは実店舗「Amazon GO」をシアトルにオープン。その斬新な決済方式が注目を集めた。お客はあらかじめ自分のスマートフォンにAmazon GOのアプリをインストールし、店舗入口に設置されたスキャナでアプリに表示されるQRコードをスキャン。店内での行動がカメラなどで捕捉され、商品を手に取ったまま店舗を出ると、レジなどに立ち寄らずとも、自分のAmazonアカウントから自動で商品の代金が引き落とされる。Amazonはこの決済方式を「ジャストウォークアウト(Just Walk Out)」と呼び広く普及する構えで、2021年までに3000軒の店舗を出店する計画があるとも報道されている。

アマゾンと対決する、「レジ無し店舗」のすごいスタートアップphoto: Adobe Stock

 このAmazon GOに対抗すべくさまざまなスタートアップがレジ無し店舗ソリューションの研究開発をおこなっているが、現時点のAmazonの対抗馬の急先鋒がAI(人工知能)技術に基づいたレジ無しチェックアウトシステムを提供しているStandard Cognition(スタンダード・コグニション)だ。

 Standard Cognitionは、2017年創業と非常に若い会社ではあるが、創業者のジョーダン・フィッシャーはアメリカの証券取引所で違法行為を発見するソフトウェアの開発に従事。その技術がベースにあるスタートアップだ。

 Standard Cognitionが提供する無人レジ店舗と他の方式との大きな違いは導入コストの低さだ。他の方式は棚の内側にまでカメラを設置していて、棚の入れ替えなども伴うが、Standard Cognition方式であればカメラの設置は天井だけで済むという。そのカメラも市販品でよいので、さらに安価なコストで済む。同社はサンフランシスコに実験店を構えており、実際に動いているデモも確認できるため、日々多くの小売業者が視察に訪れている。

アマゾンと対決する、「レジ無し店舗」のすごいスタートアップ

 資金調達に関しては、2019年8月現在シリーズB投資ラウンドで、時価総額578億円。まだまだ発展途上という企業規模だ。Y Combinator、ドレイパーアソシエイツ、EQTベンチャーズなどから投資を受けているが、AmazonとStandard Cognition以外にも、アメリカにはZippinなどの競合があり、中国にもさまざま無人レジスタートアップが登場しているなか、どのVCも様子見の段階だ。

日本でも普及は目前、大きなインパクトが予想される

 無人レジはあらゆる業態に適応できると言われているが、最もニーズが高いのはコンビニエンスストアだ。日本国内の小売業は少子高齢化に伴い人手不足という大きな課題に直面している。24時間営業について懸念の声も出てきており、営業時間の短縮を認めるコンビニ本部も登場しはじめた。

 無人レジ技術が実用化・普及に至れば、人件費を圧縮しながらも深夜に店舗をオープンすることができる。人件費に比べれば、カメラとシステムへの投資など安いものだろう。また、Amazon GOはオフィス街や空港など、レジでの渋滞が起きやすい場所への出店を目論んでいるというが、レジ待ち渋滞が無くなるのは消費者にとってもメリットが大きい。

 これら無人レジの登場によって、既存の小売業のレジシステムそのものは大きな転換点を迎えると考えられる。POSレジ業者や各種決済事業者、レジへの人材派遣業なども直撃を受ける。

 Standard Cognitionは、2019年に日本の大手卸売業のPALTACと事業提携をおこない、東北を中心に店舗を展開するドラッグストア薬王堂で実証実験をおこなうと発表した。今後、日本国内に3000店の導入を目指すというが、こちらは予定より進捗が遅れている模様だ。

 なお、日本においては、JR東日本スタートアップがサインポスト社と合弁で「TOUCH TO GO」という無人AI決済店舗を開発する会社を設立。国内で2店舗の無人決済店舗を運営している。

Amazonとの競争の行方は?

 Amazon GOと、Standard C ognitionの関係性は、Appleの提供するiOSと、Googleの提供するAndroid OSのプラットフォーム戦略に似ている。iOSはiPhoneでしか利用できず、ユーザーの囲い込みを志向するが、Androidはさまざまなメーカーのスマートフォンに導入することができ、エコシステムを外側に大きく広げようとしている。

 たとえば、Amazon GOはAmazonアカウントでの決済のみの提供だが、Standard Cognitionはさまざまな決済方法に対応している。よほどAmazon側の使い勝手が良くなければ消費者にとっての利便性は後者のほうが高そうだ。また、Standard Cognitionは、商取引における深いデータ洞察・分析を小売企業に提供するとしているのに対し、Amazonがどこまで導入事業者に販売データなどを提供するのかも注視したい部分だ。

 今後、無人レジを採用したいと考える小売業がAmazonと手を組むのか、Standard Cognitionと手を組むのか、あるいはほかの勢力と手を組むのかで、さまざまな駆け引きが見られることだろう。