スタートアップにとって、経営トップは強力な推進力です。一方で、事業を取り巻く環境がより複雑化するレイターステージにおいては、トップだけでなく、チーム全体の総合力による解決が求められます。トップと経営メンバーとのバランスはどうあるべきか、グロースキャピタルが見る両者の理想的な「関係性」について考えます。

チーム つながり
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経営機能の充足度を示唆する「関係性」

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):グロースキャピタルを運営するシニフィアンがレイトステージのスタートアップを見る際、どういった点に着目するかについて考えたいと思います。今回のテーマは、経営チームについて問われる「経営チーム内の関係性」です。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):「関係性」というのは、主にトップマネジメントと他の経営メンバーがどういう間柄かを指しています。日々の経営で何か問題が起きたとき、どんな情報交換をしていて、お互いを尊重しながらどこまで議論を深めているか。あるいは、信頼関係や情報共有の度合いはどの程度かといった点ですね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):前回、経営機能の充足度について話しましたが、それを見る上でのポイントになるという側面もあると思います。経営機能の良し悪しは、「経営チーム内の関係性は適切か」という観点からも推し量れるということですね。

小林:まさに、経営機能の根底にあるのが「経営チーム内の関係性」と捉えられるでしょう。その関係性が強いか弱いかで、チーム全体の一体感や推進力も大きく変わるのかなと思いますね。

ミーティングに表れる「忖度」のぎこちなさ

村上:例えば、トップマネジメントと経営チームが役職として存在していても、実質的にはCEOが独裁体制を敷いている場合があります。他のCxOの発言権がないに等しく、意思決定への関与度も低い場合、結局、社内のファンクションを担っているのはCEOのみということになってしまいます。

朝倉:関係性については、経営チームの方々と普通に話している中でも、にじみ出てくる雰囲気はありますね。例えば、ずっと社長が発言していた場面で、たまたまそれ以外の方に話が振られたとき、その方が社長の顔色を伺って、少し考えてから発言するとか。

小林:最も顕著に表れるのは、複数の経営陣が出席したミーティングでの相互の気配りというか、忖度の度合いでしょうか。例えば、発言する時に「しゃべって良いですか?」と必ずお互いに確認してからでなければならないのか、あるいは自由に自分の思いを話しても構わないのか。

朝倉:会社によって驚くくらい雰囲気は異なるものですが、ミーティングのやり取りにおける非言語的コミュニケーションなどに、自然と露呈しがちです。他のメンバーがCEOをやたらと恐れているケースもありますが、逆にCEOが他の経営メンバーに対してひどく萎縮しているなんてこともありますね。

小林:よく「心理的安全性」と言ったりしますが、心理的安全性の低いミーティングの特徴は、割と鮮明に表れるんですよね。主に非言語的な要素に表れがちですが、こうした所作や空気感は、実は結構大きなサインではないかと思います。

ガバナンス上も重要なチーム内の牽制機能

村上:CEOが入っていなくてもしっかりと議論が進む、意思決定ができる体制になっている状態が、デリゲーションが進化した形でしょうね。

CxOに限らず、横の連携でいろいろな問題がスムーズに解消することができれば、経営上の強みになると思うんですね。CEOに集約してからでないと横の連携が進まないというのでは、スピード感が失われてしまいますから。

朝倉:この点、スタートアップの創業経緯を見てみると、創業者が1人で牽引しているケースも少なくありません。創業初期はほぼ100%の株式を1人の創業者が保有し、あとは2、3人の共同経営者が数%の株を持ちつつ、徐々に資金調達しながら会社が大きくなっていくといったパターンですね。

特にこうした会社の場合、経営者の強烈なキャラや、求心力、推進力によって事業が伸びてきたというケースも、少なくないのでしょう。そうした推進力は非常に重要ですが、成長に沿って、いかに関係性の良いチームを築けるかがポイントになってくるのでしょう。

村上:経営者以外の人物に、パワーが集中する持つケースもありますね。

例えば、ファイナンスなど高度な専門性を要するような分野では、CEOよりCFOが独裁的なケースもあります。CEOが任せ過ぎていて、全く理解していないという状況ですね。これでは下手をするとCFOの暴走を招きかねません。

この点、他の社外取締役と同様、「なぜ、そうなるのか?」といったことを確認できる関係さえあれば、一定の理解はできるはずです。

小林:敢えて逆の観点を加えると、スタートアップとして何らかの新しいイノベーションを起こそうというタイミングでは、トップが思い切りアクセルを踏まなければならない場面もあるでしょう。

組織としてブレーキをかけるだけでなく、両極端の動きを取れる体制は、やはり残しておかなければならないだろうという気はします。

朝倉:「何としても、この会社を成功させるんだ」という強い気持ちが、ともすると端から見ればワンマン的に映ったり、独裁的に見えたりすることもあるのでしょう。

こうした強いコミットメントが吉と出ることもあれば、悪い方向に作用することもあるのが難しいところです。

小林:そうした強いリーダーシップも必要ですし、リーダーシップの行使が度を越した場合の抑止力というのも求められるということですね。

村上:あとはガバナンスの問題ですね。上場企業の場合、適切なガバナンスは社外取締役と株主によって果たされる部分がありますが、経営チーム内で互いに牽制機能が働いているというのは、ガバナンス上でも重要かなと思います。上場後の成長も支援するグロースキャピタルとしては、そうした観点も踏まえて「経営チーム内の関係性」を見ています。

強いトップがいる会社は、だめなのか?

朝倉:ここまで、経営トップの存在感が過度に強すぎる場合の副作用を敢えて取り上げてきましたが、改めて言うまでもなく、経営者がリーダーシップを持っていること自体は非常に重要なことです。

村上:強いリーダーシップ、カリスマ性のある人がいるのはポジティブだと思います。ただし、そうした人が独裁的になっている状況というのは、非常に良くない。リーダーシップが強い経営者に適切なガバナンスが効いているというバランスが大切ではないかと思います。

すごいトップがいる会社ほど、経営機能やチーム内の関係性がしっかりしていないと、バランスが取れなくなってしまいます。

朝倉:例えば、孫正義さんも柳井正さんも、あるいは永守重信さんも、外から見る限り、非常に強いリーダーシップを発揮している人物のように映ります。

小林:孫さんの場合は実際、柳井さんや永守さんのような社外取締役と侃々諤々の議論を重ねてきたのかもしれませんね。

一般的なスタートアップ経営にそうした仕組みや関係性を取り込もうとするのであれば、経営チームにきちんとした関係性と能力を兼ね備えるメンバーを揃えることができて、その人たちと議論できるかどうかが鍵になると思います。

村上:「経営チーム内の関係性」が良好な会社には、競争力の高い「武将級」の人材がさらに入って来やすいと思うんですよね。例えば「このCFOは、社長に対してこんなに物を言っているのか」という印象の会社なら、「自分もここで社長と侃々諤々の議論を交わし、成長していきたい」という気になる。経営陣の厚みを増す意味でも、現場のステータスは非常に重要ではないかと思います。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:岩城由彦 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/11/15に掲載した内容です。