発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。

発達障害の僕が発見した「ついコンビニ飯やウーバーイーツに頼る人」の家に決定的に足りていないもの

狭小ワンルームが、自炊をだるくさせる

「自炊しろとか言われてもさ、ウチの台所めちゃくちゃ狭いんだよね。コンロも一口しかないし。」

 僕も長年狭小ワンルームに暮らしてきましたので、この気持ちはよくわかります。

 しかし、狭小ワンルームという限定された環境でも、工夫次第で調理効率を上げていくことは十分に可能です。

 僕は数年前まで都内で飲食店をいくつか経営していました。さまざまな悲しい出来事があってそれらのお店はすべて売却することになってしまったのですが、その話はまぁいいとして(悲しい話はしたくありません)僕がいいたいのは、都内で飲食店を経営するというのは果てしないスペース不足との戦いそのものだということです。

「飲食店の厨房」といえば、家庭用のキッチンとはまるで違うすごい設備があたりまえにあると考えている人は少なくないでしょう。しかし、今度カウンター6席くらいの店主一人で切り盛りする小さな居酒屋にでも行くことがあったら、ぜひ厨房の中をのぞき込んでみてください。「ちょっとリッチな一人暮らしの大学生のほうがマシな台所を持っているのではないか?」という環境で料理をしているはずです。

 そりゃあそうです、東京みたいな場所で一番高いものといえば土地。我々料理人はいかに小さいスペースでおいしい料理を効率よくつくるかの追究に血道をあげているのです。別にそんなことをしたいわけではないのですが、やらざるを得ない。

「調理ケトル」を購入してください

 狭小ワンルームにおける調理効率のボトルネックはどこにあるのか。それはまず「熱源」の数にあります。料理にはたいていの場合「加熱」という工程がありますが、一般的な独り暮らしのワンルームにはガスであれ電気であれ熱源はひとつしかありません。野菜を炒めて、鍋をどかして肉を焼き、それからみそ汁をつくる。こんなことをしていてはとんでもなく時間がかかってしまいますし、みそ汁ができ上がる頃に野菜炒めはすっかり冷めきってしまうでしょう。そこでまずは熱源を増やさなければいけません。

 この「追加熱源」の中で最も便利なものは炊飯器です。あまりに一般化しているので気づきにくいですが、あれも実は「熱源を増やして調理の効率を上げる」ための道具といえます。ガスで米を炊いていたら効率が悪すぎる、だから炊飯器があるのです。しかも廉価でどこでも売っています。

 そういうわけで、僕は炊飯器を炊飯用以外にもうひとつ購入して煮込み料理に非常によく使っていたのですが、最近メーカーさんから「調理に使うのは推奨してないよ」みたいな話も出てきてしまいました。実際、僕は長年炊飯器で豚の角煮もイワシの梅煮もパキスタンカレーも調理してきたし、問題が起きたことは一度もないのですが、偉大なる日本の調理器具メーカーがいうことを無下にもできません。

 そこで、まずは調理用炊飯器の代わりに「調理ケトル」というものを購入しましょう。値段はせいぜい数1000円。これはコンセントにつなぐと加熱できる電力鍋みたいなものですが、ガスより火力が一定していてしかも保温機能もあるという非常に優れた調理器具です。これさえあれば、勉強机の上でも煮込み料理ができます。しかも、ガスより熱の当たりがやわらかいので煮込みがうまいこと仕上がります。

 さらにもうひとつ何かを買うなら僕は「BRUNO」というメーカーのコンパクトホットプレートを推奨します。焼いたり炒めたりもできるし、アタッチメントをつければそのまま電気で加熱できる大鍋になります。これと調理ケトルがあるワンルームの台所であれば、よくこなれた料理人なら8人くらいのお客さんをもてなすことが可能になってきます。あなたの夕食くらい、楽勝です。

「自炊はめんどくさい!」というあの感覚は、熱源不足で作業が並行できず時間がかかりすぎる問題であることが非常に多いです。

 まずは熱源を増やし、作業を並行できるようになりましょう。調理ケトルをひとつ増やしてペペロンチーノスパゲティを1回つくってみるだけで、その劇的な効率に気づくはずです。ニンニクとオリーブオイルのソースをつくりながらパスタをゆでられる。たったこれだけで効率は2倍なのですから。二口コンロがある方も、ぜひ火力調整しなくても吹きこぼれない調理ケトルやコンパクトホットプレートを試してみてください。二人分以上の食事をつくるなら、二口コンロでも熱源は足りないと僕は思います。そしてこの作業を並行する「効率化」の感覚をつかんでください。一気にすべてがラクになります。

・自炊がめんどくさいのは、熱源が足りないから
・調理ケトルを買うだけで、調理効率は爆上がりする
 この2つのポイントを覚えておいてください。