新型コロナウイルス感染抑制に成功した台湾。世界の貿易量の減少などで20年前半はマイナス成長に陥ったが、後半からは回復。20年の成長率は2.98%と19年を若干ながらも上回った。世界的な半導体不足を武器にワクチン確保も進めつつある。21年は20年をさらに上回る高成長となりそうだ。(第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
公衆衛生のプロが政権中枢に
新型コロナウイルスを封じ込む
台湾は、一昨年末に中国の湖北省武漢市で新型コロナウイルス(SARS-CoV-19)の感染が確認された直後に武漢と台湾の直行便の乗客に対して機内検疫を実施した。
その後も中国政府が湖北省武漢市に対して都市封鎖措置を実施する前に武漢市との間で団体旅行の往来を全面禁止し、直後には中国本土全土からの団体旅行の往来禁止、中国本土からの入国そのものの全面禁止など、先手を取る形で感染対策を講じてきた。
さらに、政府のみならず企業部門でも感染の可能性がある人を識別するとともに隔離を行うという徹底した感染対策が採られるなど、分野を問わず、幅広く強力な感染封じ込めの取り組みが図られた。
こうした背景には、2002~03年に中国本土で大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)に際して、感染対策の甘さゆえに台湾域内で感染が拡大して多数の死者を出し、当時の陳水扁政権が難しいかじ取りを迫られたことがある。
その経験を元に、05年に政府は非常事態における防疫体制の一元化を図る「国家衛生指揮中心」を立ち上げたほか、その下部組織として「中央流行疫情指揮中心」を設けて全方位的な防災システムを構築した。
昨年1月の総統選挙では蔡英文氏が圧勝で再選され、その後に発足した政権においては頼清徳副総統のほか、副首相であった陳其邁氏(昨年6月に高雄市長選への出馬を理由に辞任)、福利衛生部長の陳時中氏などの医師出身者が中枢を占めた。このように公衆衛生の“プロ”が政権中枢に多数配置されていたことも、素早い対応を後押ししたと考えられる。