五つの重要な考え方とは?

 この五つの考え方は別に私が考え出したものじゃない。生命体がどう機能するかを説明するものとして、むかしから一般的に受け入れられているものだ。でも、私は、この五つの考え方を新たな形で結びつけ、そこから生命を定義する「統一原理」を導き出すつもりだ。この本を読み終えたとき、読者が新鮮な目で生物界を眺められるようになれば、とても嬉しい。

 初めに言っておきたいのだが、われわれ生物学者は、偉大なひらめきや大理論を口にするのをためらう傾向がある。物理学者とは正反対だ。われわれは、たとえば、特定の生息地にいるすべての種をリストアップしたり、カブトムシの脚の毛を数えてみたり、何千個もの遺伝子の配列を解析したりして、研究の細部に心地よく没頭している印象があるかもしれない。

 生物学者が、単純明快な理論や統一的な考え方を避けがちなのは、自然の見事な多様性に圧倒されるからかもしれない。とはいえ、全体像を見る考え方は生物学にもあり、それは、きわめて複雑な生命の「意味」を理解する助けとなる。

 私が説明しようと思う五つの考え方とは、一.細胞、二.遺伝子、三.自然淘汰による進化、四.化学としての生命、そして、五.情報としての生命だ。こうした考え方がどこから発生し、なぜ重要なのか、そして互いにどのように関わりあっているのかを説明したい。また、世界中の科学者が新しい発見をする度に、この五つの考え方が変化し続け、現在でもさらに発展していることを示したい。

 さらには、科学的発見に携わることがどのようなものか、読者に味わってもらえるように、私が個人的に知っている人たちも含め、進歩に貢献した科学者たちも紹介したい。実験室での研究にまつわる私自身の経験についても話すつもりだ。「実験室」には、直感やフラストレーション、幸運、そしてめったにないが、本当に新たな知見へとつながる、素晴らしい瞬間がつまっている。科学的な発見のワクワクする高揚感を読者と分かちあい、自然界への理解が深まってゆくことで得られる満足感を経験してもらえたらと思う。

(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)

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