オバマ大統領が6月15日に発表した不法移民救済政策。レーガン政権がアムネスティ(既入国不法移民の合法化)を発表した1986年以来、実に26年ぶりに不法移民に在留許可を与えるというこの政策が、今ヒスパニック票田を動かしている。
スポットライトを浴びているのは、幼いころ、親に連れられてアメリカに不法入国してきた31歳未満の若者たちだ。投票権も永住権もなく、いつ強制送還されるともわからない彼らが、実はオバマとロムニーの闘いを左右する大きなカギとなっている。「ドリーマー」と呼ばれるそんな若者たちの素顔を通し、接戦の大統領選の行方を現地で占う。(取材・文・撮影/ジャーナリスト・長野美穂)
罪を犯しているわけではないのに……。
「イリーガル」と呼ばれる移民の若者たち
「もちろん実名報道でいいですよ。写真?ええ、全然オッケーです」
取材を申し込んだとき、エレック・ウェルタはそう言った。28歳で現在イースト・ロサンゼルス・カレッジの学生である彼は、物心ついたころからずっと不法滞在の身分で生きている。
7歳のとき、メキシコとアメリカの国境を、米国市民だった従兄弟のパスポートを使い、叔父に連れられて通過したのを覚えている。同じ夜、エレックの母親も幼い妹たちを連れて国境線をくぐり、不法入国。すでに入国していた父と再会し、家族はそれ以来、イーストLA地区で暮らしてきた。
両親と22歳と21歳の妹たちも不法移民であり、一番下の17歳の妹だけがアメリカで生まれた米国市民だ。
「僕たちは、自分のステイタスを『undocumented』(正式なビザなどの書類がない)という言葉を使って表現してます。僕自身、何も罪を犯しているわけではないから。でも、もちろん『イリーガル』って呼びたい人たちがたくさんいるのもわかってるけどね」
三つ編みにした長髪に口髭をたくわえた彼は、かなり目立つ風貌だ。
エレックは、オンラインメディア『ハフィントン・ポスト』に、不法移民である自身の体験を連載するコラムニストでもある。