トヨタ自動車の「Woven City」やJR東日本の「品川開発プロジェクト」など、スマートシティ構想があらためて脚光を浴びている。その背景には、デジタルの進展と社会課題の解決に向けた強い要請がある。都市のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を進め、スマートシティ開発を成功させるポイントは何か。戦略系コンサルティングファームのアーサー・ディ・リトル・ジャパンの3氏に聞いた。

都市のDXとしての
スマートシティ開発

編集部(以下青文字):スマートシティは古くて新しいテーマですが、スマートシティを軸として、デジタル時代のビジネスのあり方を再設計すべきだと御社が提唱している背景について教えてください。

アーサー・ディ・リトル・ジャパン
マネージング パートナー・日本代表 原田裕介(中央)
プリンシパル 濱田 悠(左)パートナー 祖父江謙介(右)

YU HAMADA 自動車・製造業、モビリティ、社会システム・インフラ、不動産などの分野における成長戦略策定、新規事業立案・実行支援のプロジェクト経験を豊富に有し、近年は業界融合領域における新たな事業モデルの創出に注力している。京都大学工学部情報学科卒業。YUSUKE HARADA 主に「業界融合領域における事業モデル創出による成長戦略の策定」、および「イノベーションを継続的に創出する経営体制の構築」に注力。東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程、米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院、同(MIT)技術政策大学院を修了。
KENSUKE SOBUE 日本および東南アジアにおいて、自動車、素材、消費財、小売りなど多岐にわたる業界の全社戦略、M&AとPMI(買収・合併後の統合)、事業ポートフォリオ改革、デジタル・トランスフォーメーションなどに携わってきた。京都大学大学院情報学研究科修士課程を修了。

原田:まず大前提として、企業経営やビジネスのあり方に大変革の波が迫っています。その「ドライバー」となっているのは、地球レベルでの社会課題です。象徴的なのは気候変動であり、SDGs(持続可能な開発目標)への対応はここ数年、各国政府だけでなく民間企業にとっても大きなテーマとなっていますが、そこに新型コロナウイルス感染症のパンデミックが加わりました。

 社会課題の解決に資するビジネスのあり方を追求しながら、同時に企業としていかに利益を上げ、持続的に成長していくか。この難しいテーマに企業はチャレンジしなくてはなりません。

 一方で、この難しい課題へのチャレンジを可能にする「イネーブラー」としてのデジタルがあります。リアル空間での対象が、「製品やデバイス」の故障予知から始まり、「工場やオフィス全体」の稼働工程管理、さらには、「都市」のより快適な空間へのリデザイン(再設計)へと、その範囲と目的が広がってきています。また対象が「もの」から「ヒト」、しかも感情などの非物理情報へと展開されているのも大きな意味があります。

 つまり、リアルとデジタルの交点における社会や産業、人々の生活のあるべき姿を追求するテストベッド(大規模なシステムの実証環境)として、スマートシティが注目されているのです。

祖父江:もう一つの大きな背景として、先進国における成長の限界が挙げられます。これまでのようにミクロレベルで生産性を上げ、GDPを拡大しても、人々の幸せには必ずしも結び付かなくなってきた。大量生産、大量消費のシステムに人々は疲弊し、新たな幸せ、スマートライフを求めている。

 そういう生活者サイドからの要求の高まりと同時に、先進国ではインフラの老朽化が進んでおり、それをどう再構築するかが問われています。

 先進国はおしなべて財政問題を抱えており、巨額投資によってインフラを全面更新することは難しい。そこで、デジタルを活用しながらより効率的でスマートな社会基盤を構築するとともに、生活者の幸福度を高める新たな価値を提供できる都市のリデザイン、すなわち都市のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が必須課題となっています。