
自動車をはじめ、ハードウエアの性能をソフトウエアで制御するのが当たり前の時代になってきている。そうした環境で、複雑に絡み合うソフトを管理するALM(アプリケーションライフサイクル管理)の需要が高まっている。特集『製造業DX 破壊と創造 9兆円市場の行方』の#6では、この分野の世界大手・米PTCの日本法人、PTCジャパンの神谷知信社長に日本の製造業のDX動向を聞いた。三大PLMベンダーのそれぞれの特徴についても語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
爆速で成長する中国メーカーに
日系企業が対抗する秘訣とは?
――PTCにとって日本市場はどのような位置付けですか。
日本市場の成長は顕著です。売上成長率、市場規模共にトップクラスです。米国本社も強い関心を寄せています。最大の産業である自動車に加えて、防衛と医療機器の分野が注目されています。
防衛領域ではソフトウエアの企画・開発・テスト・運用・保守までの一連の工程を、効率的に管理・連携するツールのアプリケーションライフサイクル管理(ALM)の導入が進んでいます。米国では主要顧客に防衛企業が含まれています。
日本でもドローンや航空機の分野で、ALMや製品の企画・設計・製造・販売・廃棄までの過程を一元管理するツールのプロダクトライフサイクル管理(PLM)のニーズが急拡大しています。医療機器分野でも規制強化に伴い、設計データの管理・対応への関心が高まっています。
――日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)の進捗をどう見ていますか。
進んでいるところはすごく進んでいますよ。東海道新幹線のEXアプリはすごいツールですね。あんなにすぐ予約を変更できるシステムは海外ではありません。時速300キロ近い乗り物が2分単位でダイヤ通りに走っています。ただ、先進国の中では珍しく、紙でやりとりする文化が根強く残っているのも確かです。製造現場でも紙の図面を使うことが多いです。ミスが増え、検索もしづらい。
――DX支援で関わっていて、特に競争力を感じる分野はありますか。
日本の製造業は建設機械や医療機器、半導体製造装置などで高いシェアを誇っています。産業装置は長期間使用されるため、保守やパーツ供給が重要です。例えば日本の大手建設機械メーカーは無人化された大型の鉱山機械を世界展開し、アフターサービスの複雑さにも対応しています。
ただし、この分野でも中国勢の存在感は増してきそうです。大型の鉱山機械は製造できるメーカーが世界的にもごく限られていましたが、中国はものすごいスピードでキャッチアップしてきています。日本はどうしても労働規制があります。中国は3交代でスタッフを回転させて3倍のスピードで開発を進めているのです。
次ページでは、ソフトウエアデファインドビークル(SDV)の登場によって「100年に1度」といわれる変革期にある自動車業界の最新情勢と、三大PLMベンダーの違いについて神谷氏が語る。