視点のコペルニクス的転回が
提供価値の再設計につながる
濱田:都市のDXに取り組むうえでのカギとなるのが、生活者に対する視点のコペルニクス的転回です。
これまでは企業ごと、産業ごとに垂直統合されたバリューチェーンの終点に消費者がいて、それぞれが異なる領域の製品・サービスを提供することで棲み分けを図ってきました。
しかし、社会課題を解決するにも、生活者に新たな価値を提供するにも、一つの企業、単一の産業でできることには限界があります。
教育や医療、通信や交通、エネルギーや不動産といった個別の企業・産業がばらばらにサービスを提供するのではなく、生活者一人ひとりの価値に主眼を置いて、業際を超えて協調しながら最適な価値提供のあり方を再定義する。ネットワークの中心に生活者を置く新たなエコシステムが求められています。
そこにデジタルの出番があります。なぜなら、異なるプレーヤーをネットワークでつないだり、一人ひとりに最適化されたカスタムデザインを行うのは、デジタルの最も得意とするところだからです。
デジタルのそうした特性を活かしたエコシステムを実装するフィールドとして、スマートシティがある。そういう発想が必要だと思います。
祖父江:視点のコペルニクス的転回の一例を挙げると、社会基盤の一つとしての「教育」から、個の価値を主眼に置く「学習」への転換があります。工業化社会において均質な労働力を確保するための画一的な教育から、人々の個性やライフステージに応じた多様な学習の機会を提供するサービスへの転換です。デジタルツールなどを使って、生涯を通じて必要な時に、必要な場所で本人が望む学習ができる環境を整えるには、これまでの学校教育とは大きく異なる制度やシステムが必要となります。この振幅の大きさの中に新たなビジネスチャンスが必ずあるはずです。
同様に、従来の「医療・介護」という供給者視点から、個の「健康・ウェルビーイング」へと視点を転回することで、そこに関わるプレーヤーの幅は大きく広がり、企業・産業の枠を超えた価値共創の機会が生まれます。
原田:視点の転換は、自社の提供価値をリデザインすることにつながります。
たとえば、ドイツ鉄道は、“駅から駅へ”から、“ドア・トゥ・ドア”へ、さらには“顧客志向のモビリティソリューション”の提供へと自社の提供価値を再設計すると宣言しました。鉄道運営会社として、単に「交通」という都市機能を担うのではなく、生活者の視点に立った「移動体験」価値を主眼に置くと言ったのです。
同様にテスラは電気自動車の会社ではなく、エネルギーを垂直統合マネージする社会課題解決型企業です。この2つの事例は、鉄道運行や自動車製造を中心に置くのではなく、生活者や社会課題をサービスの中心に置いた自社提供価値のリデザインなのです。