親と子が、なかなか上手くコミュニケーションを取れないために思い悩む家族は少なくない。しかし、中には、ちょっとしたきっかけから、殺傷沙汰を引き起してしまうこともある。

 あまり報道されていないが、先日も、約10年にわたって引きこもっていた30歳代の男性が、父親を刺殺した事件の判決が、神戸地裁であった。

 男性は、仕事をしないで引きこもっていたことを父親から怒鳴られ、カッとなって、とっさに果物ナイフを手にした。ところが、馬鹿にされたように嘲笑されたため、父親の腹を刺して死なせたとして、殺人罪で懲役12年の判決を受けたのである。

 ふだんは気が小さくて、家庭内暴力もとくになかったという男性。いったい、この親子の間に何があったのか。

 今回も引きこもり経験者で、自助グループ「NPO法人グローバル・シップスこうべ」(姫路市)の代表を務める森下徹さんに、関西通信員として裁判を傍聴してもらい、レポートしてもらった。

父親を刺殺した38歳男性に
「懲役12年」の判決

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 顔色が白く、髪はぼさっとしている。ジャンバーにジーンズ姿で入廷してきた中年男性は、あのような事件を引き起こしたとは想像できないほど、小柄で大人しそうな感じに見える。

 10月19日15時過ぎ、神戸地裁211号法廷の被告人席に立ったのは、A被告(38歳)。 兵庫県宝塚市の自宅で約10年間にわたり引きこもった末に、父親(65歳)を刺殺したとして殺人罪で起訴され、奥田哲也裁判長から「懲役12年」の実刑判決を言い渡された。

 判決の瞬間、身じろぎもせずに聞いていたA被告。裁判長から「何か言いたいことは?」と問いかけられると、蚊の鳴くような聞き取れない声で答えていた。

 A被告はなぜ、父親刺殺という悲劇に至るまで、追いつめられてしまったのだろうか。

 私は、この事件を取材している記者に、それまでの経緯を聞いてみた。