生活保護受給世帯の約35%は、傷病者・障害者世帯である。その中には、アルコール依存症患者も含まれている。「自分が飲みたくて酒を飲んで、飲み続けた末にアルコール依存症になって、生活保護を受給して治療を受けるとは?」と思ってしまう方は少なくないだろう。今回は、1人のアルコール依存症患者を通して、生涯付き合わなくてはならない病気を抱える人々にとっての生活保護について考えてみたい。

「お母さんは2人いらない」

 Kさん(67歳)は、小学3年生のその日のことを、今でもとても鮮明に覚えている。

 親戚のおじさんが、女性を伴って長野県の実家を訪れた。そして、5人の子どもたちを居間に座らせた。おじさんとその女性は、子どもたちと向かい合って座った。おじさんは、

「今日からお前たちのお母さんだ」

 と言った。

 Kさんは、5人姉弟の末っ子だった。3人の姉と1人の兄は、継母がやってくることを既に知っているようだった。Kさんだけが知らされていなかった。実母は、その2年前、Kさんが小学1年生の時に病死していた。

 Kさんは、何も言えなかった。ただ、心のなかで「お母さんは2人いらない」と思った。そして、高校を卒業して実家を離れるまで、継母とは一度も口をきかなかったそうだ。

 父は歯科医だった。昭和19年生まれのKさんは、終戦直後の混乱の中、経済的には比較的恵まれた環境で育った。

 昭和37年、高校を卒業したKさんは、すぐに海上自衛隊に入隊した。航空部隊の写真隊員として訓練を受け、「成田空港建設反対デモの写真をヘリコプターから撮影する」などの航空写真業務に従事するようになった。

飲酒と縁の切れなかった自衛隊時代

 海上自衛隊に入隊した若い自衛隊員は、厳しい規律のもと、基地内生活を送る。もちろん、基地内での飲酒は厳禁されている。