インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
(こちらは2020年10月の記事を再掲載したものです)
[質問]
なにを社会というのか、社会のなにを知れば、周りや己を不幸にせず生きていけるのか、分かりません。
自分は、ぼんやり生きて、25歳まできました。社会のこと、なにも分からずこの先生きのこるのは難しいと思います。また、なにも分からないままぼんやりと死んでいくのは嫌だと思うようになりました。
もうこんな年ですが、僕は、社会のことを学びたいと思います。これからのことを考える力を得たいと思います。ただ、『社会のこと』と申し上げても、なにを社会というのか、社会のなにを知れば、周りや己を不幸にせず生きていけるのか、分かりません。
識字は出来るので、生きるスタートラインに立つことの助けになる本があれば、ご紹介いただけますと幸いです。何卒よろしくお願い致します。
[読書猿の解答]
「社会のこと」を学ぶためにどうするかですが、倫理学→経済学→社会学という流れはどうでしょうか。助けになる本をそれぞれ一冊ずつ挙げてみると
『愛とか正義とか―手とり足とり!哲学・倫理学教室』
『資本主義が嫌いな人のための経済学』
『脱常識の社会学』
です。
倫理学は、善悪がつけがたい問題やそれぞれの人が正しさを主張し合う問題をどうさばき折り合いをつけるかを考えるのに役立ちます。『愛とか正義とか―手とり足とり!哲学・倫理学教室』という本は、倫理学のあれこれの知識を紹介するのでなく、倫理学を自分でできるようになるための教本である、珍しい書物です。
経済学のルーツの一つは、倫理学というか道徳哲学です。正義の中でも分配の正義を扱うところから発展しました。『資本主義が嫌いな人のための経済学』が良いのは、世の人(政治家から市井の人まで)が無自覚に振り回す〈素朴経済学〉とでも呼ぶべき通説・通念を丁寧に壊して回るところです。
社会学はやらなくてもいいのですが、世の中をよくしたいという魅力的で溺れがちな感情に適度な冷水をかけてくれます。『脱常識の社会学』は、たとえば「犯罪が社会にとって何故必要か」などという、心ある人が激怒しそうな問題を考えていきます。合理性や善意の反対側から社会を見る力になります。