そこで最近、注目されているのが「ボツリヌストキシン注射治療」。ボツリヌストキシンというタンパク質成分を、歯ぎしりを起こす原因となっている筋肉(咬筋)に注射して、歯ぎしりの強さをコントロールする方法です。

 ボツリヌストキシンは筋肉の緊張をやわらげるので、歯ぎしりの力が弱くなり、歯ぎしりの音も小さくなることから、歯や顎への負担も軽くなります。咬筋の活動が減るので筋肉の肥大も治り、顔の形も元通りに戻ります。

 両方の咬筋(3カ所ずつ)に少量を注射するだけなので、治療にかかる時間は数分程度です。特に痛みもなく、その後の皮膚の状態も変化はありません(ダウンタイムなし)。眼瞼痙攣、斜頸などにも使用されている安全な治療方法なのです。

 しかし、日本の歯科医院では頬に注射をする行為が一般的でないことや、ボツリヌストキシンは個人輸入となる、つまり入手に手間がかかることから普及していないのが現状です。

 この治療の効果は早ければ数日後、遅くとも1~2週後頃から徐々に実感できるようになります。また、器具も装着しませんので、周囲の人やスリープパートナーにも気づかれません。歯ぎしりが気になる人には、頼もしい治療法なのです。

(監修/歯科医師・幸町歯科口腔外科医院・院長 宮本日出)

◎宮本日出(みやもと・ひずる)
歯科医師、幸町歯科口腔外科医院院長。日本顎関節学会・代議員・指導医・専門医、厚生労働省認定歯科医師卒後臨床研修指導医教官。1965年、石川県金沢市に三人兄弟の末っ子として生まれ、猛勉強を始め、愛知学院大学歯学部に合格。のちに歯科医師免許取得。現在では、国内外に160篇以上の論文を発表し、複数のメディアにも登場するカリスマ歯科医となる。