【出口治明学長】
出口学長！
信長・秀吉・家康の部下なら
誰に仕えますか？
まるで人が飛び出してきそうな
「人物相関図」秘話

世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU（立命館アジア太平洋大学）学長。世界史を背骨に日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した『哲学と宗教全史』がついに11万部を突破。「ビジネス書大賞2020」特別賞（ビジネス教養部門）を受賞。
◎宮部みゆき氏（小説家）が「本書を読まなくても単位を落とすことはありませんが、よりよく生きるために必要な大切なものを落とす可能性はあります」
◎池谷裕二氏（脳研究者・東京大学教授）が「初心者でも知の大都市で路頭に迷わないよう、周到にデザインされ、読者を思索の快楽へと誘う。世界でも選ばれた人にしか書けない稀有な本」
◎なかにし礼氏（直木賞作家・作詞家）が「読み終わったら、西洋と東洋の哲学と宗教の大河を怒濤とともに下ったような快い疲労感が残る。世界に初めて登場した名著である」
◎大手書店員が「百年残る王道の一冊」と評した『哲学と宗教全史』。
だがこの本、A5判ハードカバー、468ページ、2400円＋税という近年稀に見るスケールの本で、最近では「鈍器本」といわれ注目を集めている。
実は、「この体裁だからこそ売れる」と発売前から予言し、本書を熱狂的に推し続ける、業界屈指の書店員がいる。紀伊國屋書店梅田本店の百々典孝（どど・のりたか）氏だ。
1990年以来、30年以上店頭に立ち続け、本を売るだけではなく、広く長く読まれるべき本はいかにあるべきかを問い続ける百々氏。実際に新しい読者に手渡せる方法を考え抜いた百々氏が中心となって立ち上げた「OsakaBookOneProject（OBOP）」では、7年間で約680万円分の書籍を大阪の子どもたちに寄贈した。
今回、11万部突破、および紀伊國屋書店梅田本店単店舗1500冊突破記念として、名物書店員と著者の出口治明氏が担当編集者を交えて初鼎談。この道30年の本のプロならではの目線で、掟破りの本が生まれた初公開エピソード、1年半以上売れ続ける理由、そして「著者・出口治明」の魅力を、たっぷり解き明かす。（構成・湯川カナ）

アレクサンダー大王に
なりきってしまう出口学長

寺田庸二（以下、寺田）：百々さんに『哲学と宗教全史』の原稿を読んでいただき、「早くも今年1番の本に決まりました」とメールをいただいたのが、2019年5月16日でした。

その際、「すごくのめり込んだ」という表現が何箇所かありました。どんな感想だったのでしょうか。

百々典孝（以下、百々）：一般の世界史の教科書に感情移入することはまずないのですが、出口さんの本を読むとあるのです。

寺田：あります！

出口治明（以下、出口）：それは僕が、本を読むときにいつも「この時代に生まれていたらどうだろうか」と考える性格だからかもしれません。

僕が中学生のとき、アレクサンダー大王（在位BC336-BC323）の物語を一所懸命読んでいたのですが、すると僕自身がアレクサンダー大王そのものになってしまう。もちろん、歴史上の出来事で結果はわかっているので、本を読みながら「このとき、どんなことを考えたんだろうか」「どうしてこんなことをやったんだろうか」と考え続けてしまう。僕自身が、入れ込んでしまうのですね。

一時期、マルクス・アウレリウス・アントニヌス（在位161-180）がすごく好きで、いろいろ調べたり『自省録』を読んだりしていた頃は、夢でドナウ川のほとり、今のウィーンでマルクス・アウレリウスと一緒に蛮族に押されたりしながら戦っていて、寝ながらものすごくうなされていたそうです（笑）。そういうふうに、すぐに没頭してしまう。単純なので、高い確率で、寝る前に読んだ本を夢に見ます。

寺田：毎夜、必ず1時間、寝る前に本を読むそうですね。

出口：忙しいときは30分だけのこともありますし、面白い本だったら1時間半ぐらい読むこともあります。癖になっているので、だいたい変わらないですね。

本はたくさん読んでいますが、僕は肚落ちしないと前に進めないので、実は速読ができないのです。これも、そんな本の読み方を積み重ねてきたからなので、これからも変わらないと思います。そういう性格が、ひょっとしたら百々さんに評価していただいたのかもしれませんが、そんなことを書ける人は山ほどいると思います。

百々：たしかに歴史の出来事を面白おかしく書ける人はいるかもしれませんが、登場人物の息吹や体温のようなものが伝わる本、「人の見方」を教えてくれる著者は、他にはいないと思います。

出口さんは、たぶん歴史の教科書を読んでさえ、こうして人の息吹を感じ取ることができる。そこが出口さんの感性のすごさなのだと思います。