不透明性が高まるいま、「人々を熱狂させる未来」を“先取り”し続けてきた音楽に目を向けることで、どんなヒントが得られるのだろうか? オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだというの経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽やアーティストの分析を通じて、ビジネスや人生を切り開くための道を探った一冊だ。バラク・オバマ元米国大統領も、この「ロックな経済学(ROCKONOMICS)」に強い関心を示しており、本書に熱い絶賛コメントを寄せているという。本記事では同書の一部を抜粋して紹介する。
「体験経済」の典型としての音楽
ぼくが心理学者のダニー・カーネマンと一緒にやった研究で、音楽を聴いて過ごす時間は、普段の生活の中で人が一番楽しいと感じる時間の1つなのがわかった。
音楽は、スポーツや信仰の活動に参加したりパーティに出かけたり、なんてのと同じ部類に属すると考えられている。
前向きな気持ちを生み出すし、ストレスや怒りといった後ろ向きな感情を抑え込んだり追い払ったりするのに役に立つ。
それだけでなく、音楽を聴けば他の活動の体験がよりよいものになる。通勤や家の掃除なんて活動がそうだ。
学生のときに「勉強中に音楽聴くのはやめなさい」って親御さんに言われてガン無視したことがある人なら、どんなつまらない活動だって音楽があればマシになるのを知っている。
実際、今これを読んでるあなたも、けっこうな割合で音楽聴いてんじゃないですか?
第11章では、音楽は人間の社会が思いついた一番のお買い得の1つで、しかもこれまでのところどんどんお買い得になっている、という話をする。
平均で見ると、ぼくらは1日に3時間から4時間を録音された音楽を楽しんで過ごしている。
でも、消費者は平均で、音楽には1日で40セントも遣ってない。
物価を調整すると、これは1999年から80%の減少だ。
アメリカ人は録音された音楽よりもポテトチップスにたくさんお金を遣っていることになる。
どんな曲もどんなジャンルの音楽も、いつでもどこでも実質的にタダで聴けるようになったから、人類の厚生は大幅に高まった。
実は、音楽は典型的な「体験経済」の一部だ。
手に取って触れる製品やサービスよりも体験を売ることに頼った経済の一分野である。
ぼくたちのGDPのうち、体験を生み出し、販売することで得られる部分の割合はどんどん高くなっている。
経済の残りの部分だって、体験をどう創って売るか、音楽業界からとてもたくさんのことを学べるはずだ。
厳密に言うと、音楽の何があんなにも激しく情緒をかきたてるのだろう?
音楽に何があるから、人は気分が暗かったり幸せだったりするときや、寂しかったりたくさんの人と交わりたかったりするときに、音楽を体験したくなるのだろう?
マディソン街の連中が、音楽を流すとコーヒーだろうが車だろうが製品が売れるのを発見したのは何がどうだったからなんだろう?
選挙運動でも音楽が流れを決めたりするし、飲み屋や卒業記念ダンスパーティ、結婚式、その他数限りないイベントや節目節目の儀式でも、音楽で雰囲気を盛り上げられる。
ぼくらは音楽でABCを学び、覚える。
実は、音楽療法は心の病や神経の病の治療にも役立つことがわかっている。
音楽がかける魔法には謎に満ちたところがある。
考古学者が発見したのによると、文明に楽器が現れて何千年も経つ。
人類のよく知られた道具や器具よりもずっと古いのだ。
どうやら音楽はぼくらのDNAに組み込まれているようだ。
アバの「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」にもあるとおりだ。
「歌や踊りがなかったら あたしらいったいなんなのよ」
(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)
経済学者(労働経済学)
1960年、アメリカ合衆国ニュージャージー州生まれ。1983年、コーネル大学卒業。1987年、ハーバード大学にて経済学の学位を取得(Ph.D.)。プリンストン大学助教授、米国労働省チーフエコノミスト、米国財務省次官補およびチーフエコノミストを経て、1992年、プリンストン大学教授に就任。2011~2013年には、大統領経済諮問委員会のトップとして、オバマ大統領の経済ブレーンを務めた。受賞歴、著書多数。邦訳された著書に『テロの経済学』(藪下史郎訳、東洋経済新報社)がある。2019年死去。
[訳者]望月 衛(もちづき・まもる)
運用会社勤務。京都大学経済学部卒業、コロンビア大学ビジネススクール修了。CFA、CIIA。訳書に『ブラック・スワン』『まぐれ』『天才数学者、ラスベガスとウォール街を制す』『身銭を切れ』(以上、ダイヤモンド社)、『ヤバい経済学』『Adaptive Markets 適応的市場仮説』(以上、東洋経済新報社)、監訳書に『反脆弱性』(ダイヤモンド社)などがある。