ポール「ビートルズはお金を稼ぎたかっただけ」天才すらも翻弄する「経済の力」とは?Photo: Adobe Stock

オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだというの経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽関連のデータ分析と関係者へのインタビューを通じて、経済的な成功や人生における幸福への道を解明した驚異的な一冊だ。
バラク・オバマ元大統領も、以前から「Rockonomics(ロッコノミクス)」というコンセプトに強い関心を示しており、「何十年も積み重なってきた経済の問題を解くカギがここにある!」と熱い絶賛コメントを寄せている。
ますます不透明性が高まるいま、「人々を熱狂させる未来」を“先取り”する存在であり続けてきた音楽に目を向けることには大きな意味がある。本書が語る「ロックな経済学の7つのカギ」は、今後のビジネス・人生を構想するうえでも、貴重なヒントになるはずだ。
経済学者の大竹文雄氏(大阪大学)、経営学者の楠木建氏(一橋大学大学院)、さらには「長年ラジオの仕事を通じて音楽業界に関わってきたけれど、あくまで音楽優先のため経済面には疎かった。そんなぼくにとってもこの本の解説はわかりやすく、すごく賢くなった気分です!」と語ったピーター・バラカン氏など、各氏が絶賛する注目の『ROCKONOMICS』とは、いったいどんな内容の本なのか? 本書から特別に一部を抜粋して紹介する。

音楽のあらゆるところに
「経済的インセンティブ」は隠れている

 音楽を聴いていても気づかないかもしれないけれど、音楽が生まれ、世に送り出されるとき、その要には経済の仕組みがある。

 経済の力は、ぼくらが聴く音楽や聴くときの機器、音楽のジャンル、それからライヴにストリーミング、録音された音源にぼくらが払うお金の額を大きく左右する

 サム・クックは「アメリカン・バンドスタンド」〔アメリカの音楽番組〕でディック・クラークに、1950年代にゴスペルを離れてポピュラー音楽に移ったのはなんでですかと聞かれた。歌い手は笑って本気でこう答えた。

「懐の都合だよ」

 それにポール・マッカートニーも、最近ハワード・スターンに、ビートルズは革命を起こそうなんて考えてなかったと言っている。

「ぼくらは単なるリヴァプールの貧しい界隈のガキで、ちょっとお金を稼ぎたかっただけだった」

 ミュージシャンが自分では経済的インセンティヴで動いているとは感じていなかったとしても、経済の力はこっそり成功と失敗を左右している。著書『商業文化を称えて』〔未邦訳〕でタイラー・コーエンもこう言っている。

「経済が文化に及ぼす影響は、広く信じられているよりも強い。印刷機ができてクラシック音楽を広める術ができ、電気機器でロックンロールがやれるようになった。よかれあしかれ、アーティストは経済の制約を受ける」

 音楽を本当にわかり、味わうためには経済の仕組みがわからないといけない。

 例を1つ挙げると、今日、複数のアーティストがコラボする曲が増えている。ジャンルを超えて新しい聴き手を摑もうと、大スターが他のアーティストと一緒に演る、なんてことが最近は増えているのだ。

「デスパシート」がいい例で、これは2017年に一番ストリーミングで聴かれた曲だ。ルイス・フォンシとダディ・ヤンキーが演った曲で、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーしている。

 よその歌い手をフィーチャーした曲をよくよく聴くと、普通、フィーチャーされたスターは曲の最初のほう、始まってから30秒以内に出てくるのに気づく。

 これは理にかなっている。

 ストリーミング・サービスが曲の使用料を取られるのは少なくとも30秒以上ストリーミングされたときだけだ。つまり、ストリーミングにかかわる経済的インセンティヴが、作詞や作曲、演奏のあり方に直接に影響を与えている

 音楽業界を経済学で注意深く研究すれば、音楽はどこへ向かっているのか、それはなぜかを明らかにすることができる。

 音楽や音楽稼業は時と共に変わる。でも経済学にはひと握り、時代を超えた知見があって、それを使えば、新しいジャンルやアプリが創られるときの仕組みなど、業界のありようを理解できる。

 もっと大事なのは、音楽業界の経済の仕組みを理解すれば、経済の力がぼくらの日々の暮らしや仕事、社会をさまざまな形で左右しているのを理解できるようになるってことだ。

(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)