1970年に創業した日本最古のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」をご存じだろうか。最盛期の1990年代には全国で400近い店舗を数えた。しかし徐々に店舗を減らし、現在は27店舗しかない「絶滅危惧種」である。しかし2018年にある女性が社長に就任してから、ドムドムは静かに変わりつつある。イベントに参加すれば即日完売、コラボ商品を販売すれば大人気、そして2019年に発売した「丸ごと!!カニバーガー」は大評判となり、売上に貢献。ついに2020年度の決算で、ドムドムハンバーガーは黒字化を達成した。コロナ禍で飲食業が苦しい時代であることを考えると快挙だ。藤﨑社長はどうやって組織を立て直したのか? 7月6日発行の『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)からそのヒントを学ぼう。

「丸ごと!!カニバーガー」誕生前夜の伝説

ついに誕生!『丸ごと!!カニバーガー』

新メニューについては、定期的に発売することができていました。ただ、大ヒットに至る商品はなかなか生まれません。訴求力のある商品を打ち出したい思いはずっと持っていました。そんななか思いついたのは、魚介のバーガーを作りたいということです。

ファストフードの魚介バーガーというと、大抵スクエア型の白身魚フライを挟んだフィッシュバーガーかエビバーガーがほとんどです。そこで、これは社長就任前ですが、鯖の竜田揚げを挟んだ『ドムフィッシュバーガー 鯖タツタ』(18年1月発売)と、バンズからはみ出るぐらい大きなアジフライの『ドムフィッシュバーガー アジフライ』(18年4月発売)を作りました。概ね好評でしたが大ヒットには至りませんでした。

これらを経て、ドムドムならではの魚介バーガーに再チャレンジしたいと思っていました。そんな時に商品開発を担当する浅田(裕介)さんから「ソフトシェルクラブ(脱皮したての軟らかいカニ)を使ってみてはどうでしょうか」と提案されたのです。聞いた私は二つ返事で「やってみて。やってみたい!」とGOサイン。「チリソースが合うんじゃないの?」と提案することも忘れませんでした。

出来上がってきたサンプルを試食して「とても良い商品! これはぜひ商品化したい」と思いました。試作は決定まで何回か繰り返すことも少なくないのですが、こちらに関しては一発OKでした。

しかし、役員会で承認を得る段階になると、やはりインパクトの強すぎる見た目と、原価率を鑑みた想定価格がどうしてもドムドムハンバーガーのメニューとしてはふさわしくないという判断で、商品化は困難という意見が多数を占めました。

ただ私は、見た目のインパクトに印象が引っ張られがちではあるものの、味は何度も食べたくなるほどだと自信がありました。よく奇抜さをねらったメニューで一度食べたら十分というものもありますよね。でもこれは、一度食べたらクセになる美味しさだと思ったのです。

確かに原価を考えると、一般的なハンバーガーの価格帯には収まらないでしょう。レストランでもソフトシェルクラブを使ったメニューはそれなりの価格になります。でも、価格に見合う顧客満足が提供できるのであれば、費用対効果で消費者の理解は得られると考えました。

見た目のシュールさも、間違いなく話題になるだろうと確信していました。バンズからはみ出るほどのカニが丸ごと一匹挟んであること自体、インパクトが強いと思いますが、さらに楽しいオマケが付いてくるのです。

付いてくるのは、よくお子様ランチで見かける、爪楊枝を使った小さな旗です。それをカニさんに持たせて写真も撮れますよというのが浅田さんの提案でした。SNS効果も狙った、プラスアルファの顧客体験を提供する新しい試みです。

イベント先行販売で成功を確信

正式に商品化が決定した『丸ごと!!カニバーガー』を2019年9月に『DOMDOM in 六本木』というイベントで先行販売しました。

このイベントは、学生時代の先輩が経営していたイタリアンレストランが閉店し、「テナント契約が月末に切れるまで、好きに使っても良いですよ」と言われて思いついたものです。私もちょくちょく訪れていた素敵なレストランだったので、ぜひイベントをやらせて欲しいとお願いしたのです。

9月に2日間、日本生まれのドムドムハンバーガーによる4種の高級バーガーとアルコールを楽しめるイベントを「Born in JAPAN」のコンセプトのもと、開催(好評のため、10月にも3日間、追加開催)。「高級バーガーをドムドムがやってみたら」をテーマにして準備しました。合わせて『FRAPBOIS』さんのコラボグッズを飾り、ドムドムハンバーガーを堪能できる空間に仕立てました。大人のお客様を意識して、メニューも写真ではなくイラストで起こしました。

その時に提供したのは『肉味バーガー』『醤油バーガー』『肉味噌バーガー』の3種の和牛プレミアムバーガーと、先行販売の『丸ごと!!カニバーガー』、およびサイドメニュー類でした。

『丸ごと!!カニバーガー』はオリジナルバンズを使い、オリジナルピクルスと人参きんぴら、北海道ポテトを添えて税込1280円で提供しました。こちらもSNSですごく話題にしていただいて、正式発売後の成功を確信したのでした。

参考記事
イベント参加やアパレルとのコラボは
ファンの愛を感じ取れる実験室