1970年に創業した日本最古のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」をご存じだろうか。最盛期の1990年代には全国で400近い店舗を数えた。しかし徐々に店舗を減らし、現在は27店舗しかない「絶滅危惧種」である。しかし2018年にある女性が社長に就任してから、ドムドムは静かに変わりつつある。イベントに参加すれば即日完売、コラボ商品を販売すれば大人気、そして2019年に発売した「丸ごと!!カニバーガー」は大評判となり、売上に貢献。ついに2020年度の決算で、ドムドムハンバーガーは黒字化を達成した。コロナ禍で飲食業が苦しい時代であることを考えると快挙だ。藤﨑社長はどうやって組織を立て直したのか？ 7月6日発行の『ドムドムの逆襲』（ダイヤモンド社）からそのヒントを学ぼう。
社内は大反対のイベント参加
社長に就任して間もなく、2018年10月に行われるイベントに参加してくれませんかという打診を受けました。幕張メッセで開催される声優、田村ゆかりさんのイベントです。1日の動員数が6000～8000人ほどの規模で、計2日間という予定でした。
田村さんがドムドムハンバーガーを愛してくださっていて、会場内でバーガーの販売をしませんかとお声がけいただいたのです。
聞いた時に「面白そう！ やりたい！」と思いましたが、社内は大反対。出店費用もかかりますし、キッチンカーも用意しないといけません。スタッフも大人数集める必要があります。ましてや短時間で大量のハンバーガーを店舗外で販売するなど想像できなかったのだと思います。でも絶対にチャレンジしてみたいと、本社（レンブラントホールディングス）も巻き込んで検討し、参加することにしたのです。
結果、オリジナルで用意した『ゆかりチキンバーガー』を1日500個、2日で計1000個販売する予定が、1日で1000個、2日で2000個売ってしまうという大盛況ぶりでした。声優さんのファンの方はSNSの使い方が上手い方が多く、限定バーガーが瞬く間にSNSで拡散されて、お客様が押し寄せました。在庫が追いつかなくて、途中で販売を休止。追加納品され次第、販売を再開しましたが、キッチンカーの厨房作業も間に合わない状態でした。
2日目も完売の瞬間、並んでいたお客様から拍手が湧き起こりました。購入できない方ばかりだったのに......。暖かなその光景を忘れることができません。
このイベントに参加したことで、ドムドムハンバーガーはこれほど皆さんに愛されているのだと実感しました。そしてSNSの持つ力にも気づかされました。売上以上に、素晴らしい経験になったと思います。
その後も、新橋で開催される住人や働く方のためのお祭り『新橋こいち祭』やバレーボールチームの試合など、様々なイベントに限定メニューやコラボバーガーを企画し、積極的に参加していきました。『新橋こいち祭』では初めてアルコール販売も行いました。
イベントに出るたびにSNSにメニューなどをあげて告知しましたが、毎回、反応の多さに驚きました。SNSの訴求効果は絶大で、毎回告知後は並ぶ人の数が目に見えて増えたのです。
ドムドムが洋服？ 初めてのアパレルコラボ
SNSで話題になることで、さらなるイベントやコラボのお声がけに結びついていきました。ビギグループのブランド『FRAPBOIS（フラボア）』さんからもコラボの打診をいただきました。
社内では「ハンバーガー屋が洋服を作ってどうするの」と断るべきだと考える人が大多数でした。確かにロゴの取り扱いや商標権など、企業として管理が必要な部分もあります。仕事が増えてしまうということです。
でも、私はその先にある消費者へのブランド認知拡大を想像し、「絶対やるべき！」と強い思いを持って説得しました。ドムドムハンバーガーのブランドキャラクターである「どむぞうくん」などが大胆にアレンジされたデザイン案も素晴らしくて、何より自分でも欲しいと思えるほど、商品としてとても魅力的だったのです。若い世代に人気のブランドとコラボすることで、50年続くブランドに新しい風を起こすことができると考えました。
正式にコラボが決定すると、提案を受けていたTシャツやワンピースやニット、キャップや靴下などのファッション小物、スマートフォンケースなどのグッズのデザインを詰めていきました。遊び心のあるデザインは、ドムドムハンバーガーの目指す価値観ともマッチして素敵な商品になりました。
実務では109のアパレルショップの経験が活きました。企画から素材の選定、サンプル確認など、仕事の流れがわかっているのでやりとりもスムーズです。素材の名称や業界の専門用語もわかりますので、打ち合わせ時にコンセンサスも取りやすい。何よりもアパレルの仕事が好きなので、複数回にわたる綿密な相談や確認も、楽しくて苦になりません。
そういう意味でも、私が社長に就任してやるべき仕事のひとつだったと自負しています。
『FRAPBOIS』シリーズは19年夏に発売されました。ドムドムハンバーガー始まって以来のアパレルコラボです。ネットメディアなどでも話題にしていただき、売上も好調でした。こちらからお願いした訳ではないのに、芸能人の方が着てくださったりして、既存のファンの方とは違う世代、違う客層へアピールできたと思います。
アパレルやグッズ関係のコラボはその後もいくつか実施していますが、これからも機会があれば積極的にやっていきたいと思います。
参考記事
入社9ヵ月で社長になった私が
最初にやった3つのこと
藤﨑忍（ふじさき・しのぶ）
1966年、東京都生まれ。青山学院女子短期大学卒。政治家の妻になり、39歳まで専業主婦。しかし夫が病に倒れ、生活のために働き始める。最初はギャルブームの頃のSHIBUYA109の店長。若い店員とのコミュニケーションがうまく、また店頭ディスプレーのセンスも良く、店の売上は倍増。ところが経営方針の違いで経営者と対立し、退職。アルバイトでしのぐが、たまたま空き店舗を見つけ、居酒屋を開業。すると料理の美味しさや接客の良さで一躍人気店に。その腕を常連客に見込まれ、ドムドムのメニュー開発顧問に。「手作り厚焼きたまごバーガー」をヒットさせ、ドムドム入社。その後わずか9ヵ月で社長に。「丸ごと!!カニバーガー」などが話題になり、ドムドムの業績は確実に回復している。テレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」出演で話題に。著書に『ドムドムの逆襲』（ダイヤモンド社）。
（撮影／ホンゴユウジ）
【もっと知りたい人へ】
藤﨑 忍：著定価：1650円（本体1500円＋税）
発行年月：2021年7月
判型/造本：46並製、216ページ
ISBN：978-4-478-11352-3
大学で学ぶことが全てではありません。
主婦でも、小さなお店の店長でも、
学べることはたくさんあります。
かつては全国に400店舗近くあったが、現在は20数店舗まで減少して「絶滅危惧種」と言われているハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」。
しかし2018年に藤﨑氏が社長に就任して以来、「丸ごと!!カニバーガー」など話題商品を連発し、勢いを取り戻している。
彼女は39歳まで専業主婦でありながら、その後、109のアパレルショップの店長となり、売上を倍増。さらに新橋の居酒屋の女将となり、予約困難な人気店に育て上げるなど、異例の経歴の持ち主。彼女の破天荒すぎる人生がテレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」で紹介され話題になっている。
なぜ彼女の手がける店は必ず人気店になるのか？
波乱万丈の人生と、そのなかで培ってきた仕事術を1冊にまとめた。日本中の女性、そしてコロナで苦しむ飲食業界に勇気を与える一冊。
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＜目次＞
第1章 政治家の妻として人付き合いを学ぶ ＜ドムドム社長の現点＞
第2章 109の店長になり商売の面白さにハマる ＜主婦から店長へ＞
第3章 新橋の女将になり人気店をイチから作る ＜アルバイトから起業へ＞
第4章 50歳を過ぎての新たな挑戦 ＜ついにドムドム社員に＞
第5章 火中の栗を拾う ＜ドムドム社長に大抜擢＞
第6章 愛されるブランドの作り方 ＜ドムドムの逆襲＞
第7章 50年後も愛されたい ＜ドムドムの未来＞
