ネットで死にかけ、ネットで復活した「奇跡のビジネス」とは?Photo: Adobe Stock

人々を熱狂させる未来を“先取り”し続けてきた「音楽」に目を向けることで、どんなヒントが得られるのだろうか? オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだという経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽やアーティストの分析を通じて、ビジネスや人生を切り開くための道を探った一冊だ。同書の一部を抜粋して紹介する。

一度沈みかけた音楽業界は、
なぜ「復活」できたのか?

 音楽を配信したり聴いたりするときの形式は、蓄音機、テープレコーダー、そしてラジオの発明と、20世紀を通じて移り変わってきた。

 でも21世紀になって音楽がデジタル化されるとそんな変化は激しく速くなった。

 図2.2はレコード業界が3つの幅広い形式のそれぞれから得た売上高が時とともにどう移り変わってきたかを示している。

ネットで死にかけ、ネットで復活した「奇跡のビジネス」とは?

 物理的な製品であるCDやカセット、塩ビのレコードなど、それからデジタル・ダウンロード、そしてストリーミングだ。

 2000年代初めのデジタル化の波は、音楽の販売に2つの大きな影響を広げた。

 第一に、デジタル・ダウンロードで、手に取って触れるレコードやカセットの売り上げは落ち込んだ。

 第二に、ファイルの共有や海賊盤で録音された音楽の売り上げが食われた。

 ナップスターや許可なくコピーされたCDといった、音楽の非合法な複製や共有が行われ、まっとうな音源の需要は着実に衰えていった。

 10年を超える長きにわたって音源業界の景気は悪く、鉄鋼とか石炭の業界と同じ道をたどっていた。

 エイヴリー・リップマンはこう言っている。リパブリック・レコーズの社長で創業者だ。

 いわく、この時期の音源商売は「15年間ゆっくり落ちてく飛行機」みたいだった。

 それから波がもう1つ、業界を襲った。

 スポティファイ、パンドラ、それにアップル・ミュージックなんかのストリーミング・サービスが急速に成長し、デジタル・ダウンロードにほとんど取って代わってしまった。

 オンラインでiPodなどのMP3機器用にデジタル・ダウンロードを提供するiTunesなんかのサービスは、10年前には革命みたいに思えたけれど、8トラックのテープや45回転のレコードよろしく、今じゃ過去の遺物だ。

 経済学者をやってても、創造的破壊が起きるのを目の当たりにする機会なんてそうそうない。

 ガラパゴス諸島を訪れたダーウィンでいえば、目の前で種が進化するのを観察できるみたいなものである。

 一方、物理的な音源の売り上げは、低水準になったがやっと安定した。

 音楽好きの連中のおかげで塩ビのレコードはリバイバルを迎え、古い車を乗り回す連中がダッシュボードに積んだプレイヤーで新しいCDをかけるおかげでCD市場もてこ入れされた。

 ストリーミングは音楽の売り上げに革命的な影響を及ぼしている。

 15年に及ぶ低迷と停滞の後の2016年、録音された音楽の売上高はついに増加し始めた。

 そして兆しを見る限り、この上昇トレンドはもうしばらく続きそうだ。

 音楽の売り上げの成長は、その大部分がストリーミング・サービスから来ている。

 とくにスポティファイやパンドラ、アップル・ミュージック、アマゾン・ミュージック、そしてディーザーの購読料は急速に成長している。こうしたサービスは音楽版の食べ放題レストランだ。

 ファンは月極の料金を払うか、ときどき入るコマーシャルがうっとうしいのを我慢するかすれば、これまでに録音された音楽がほとんど全部聴ける。

 この革命から得られる大事な教訓を1つ。

 ファンは、手軽なやり方で提供されれば喜んで音楽にお金を払う。

 ストリーミングが音楽稼業を支えた。

 ヒップホップ、エレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)、ラテン音楽といった特定の分野にはとくに有利に働いた。

 加えて、トニー・ベネットみたいな昔のアーティストやクラシック・ロックのバンド、ビートルズやローリング・ストーンズが出した名盤の印税も息を吹き返した。

 アーティストやなんかの、著作権を持っている人たちがお金を貰うのは曲が配信されたときで、額はいろいろだ。

 広告アリのサービスで配信されたか、購読料を払うサービスで配信されたかで違ってくる。

 それぞれのサービスの内容によっても違ってくる。

 でも、だいたい1曲あたりの印税は配信100万回あたり2000ドルから3000ドルぐらいである。

 スポティファイはストリーミング・サービス最大手で、売り上げの約60%を曲の印税として払っている。

 今のぼくらはまだストリーミング時代のごく初期にいるわけで、業界の成長の余地はものすごく大きい。

 音楽稼業は大きく姿を変える可能性がある。

 とりあえず、ストリーミング・サービスが、録音された音楽の業界が喉から手が出るほどほしがっていたアドレナリン一発を与えてくれたのは間違いない。

(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)