YouTubeは音楽にとって「敵」か「味方」か?Photo: Adobe Stock

人々を熱狂させる未来を“先取り”し続けてきた「音楽」に目を向けることで、どんなヒントが得られるのだろうか? オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだという経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽やアーティストの分析を通じて、ビジネスや人生を切り開くための道を探った一冊だ。同書の一部を抜粋して紹介する。

音楽業界の収益を後押しする
出版&シンクロ権

 ストリーミングは出版による収益も後押しした。

 これは現在、音楽に関する収益の9%を占めている。

 出版業界は複雑で、なんというか、古臭い商売だ。

 音楽を使用する権利の代金がちゃんと支払われるようになっている。

 曲を作る人たちは、自分の曲を自分でも出版できるけれど、多いのは、出版社と手を結んで、曲を使うためのいろいろな権利それぞれに対して十分な支払いが受けられるようにするやり方だ。

 確かな数字はないのだけれど、曲を書いたアーティストは、だいたい、出版による収益の約45%を受け取る。

 この収益から分け前を受け取る作曲家や協力者の数はどんどん増える傾向にある。

 音楽がどんどん複雑になり、曲作りにかかる手数や頭数が増えているからだ。

 稼ぐ道をもう1つ挙げよう。

 まあ、音楽の売り上げ全部に占める割合は1%ほどなのだけれど。

 シンクロ権だ。

 シンクロ権とはビデオやテレビ、映画、コマーシャルなんかで音楽を流すのに必要な権利だ。

 たとえば、音楽ビデオをユーチューブにアップするにはシンクロ権が必要だ。

 ユーチューブは2006年にグーグルが買収した動画共有サービスである。

 ユーチューブが今日の音楽に果たした役割は計り知れない。

 2017年で見るとアメリカ人全員のまるまる半分が週に少なくとも1回はユーチューブで音楽を聴いている。

 スポティファイとパンドラの視聴者がアメリカ人全体に占める割合を合わせたものを、どの週で見ても上回っている。

 ほとんど自然に、ユーチューブは音楽業界で論争の的にして大きな役割を果たすプレイヤーになった。

 音楽がストリーミングされた時間全体の3分の1を占めるのがユーチューブだ。

 そしてそれでも音楽の売り上げの6%にすぎない。

 そんなバランスの悪さも変わりそうだ。

 業界のプロの人らはそんなに早く変われるものかと悲観的だ。

 2017年にユーチューブは、レコード会社なんかの曲の著作権の持ち主に、10億ドルを超える額を支払っている。

 2016年とだいたい同じ数字だ。

 ユーチューブはミュージシャンやレコード会社にとっていいものが出てきたってことだろうか、悪いものができたってことだろうか?

 すぐわかる答えなんてない。

 一方では、ユーチューブの売り上げのうち音楽著作権のために払われた割合は、ストリーミング・サービスに比べて小さい。

 おかげでミュージシャンやレーベルには怒ってる人がたくさんいる。

 その一方で、昔はレコード・レーベルもアーティストも、音楽ビデオを配信したり販売したりするときの費用は持ち出しだった。

 だから、ユーチューブがMTVに取って代わり、もっと広く届けられるようになったという点で、レコード会社にとってもミュージシャンにとっても、ユーチューブはお得だってことになる。

 アーティストの稼ぎといえば、だいたいは録音した音源の割合は小さいから、差し引いて見るとユーチューブは、これからブレイクしてお客を集めようってアーティストにとってはいいものである可能性が高い。

 でもすでに名声を得ているスターにとっては、ユーチューブはどちらかというと印税を払ってくれない相手で、だからスターたちが文句を言うのも当然なのである。

(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)