「最後の決め手はやっぱりフィーリング!」転職活動のとき「直感」最優先で選んでいるという方、ちょっと待ってください。「直感でピンときた」というその会社は、もしかすると、あなたの市場価値を下げる「ヤバい会社」かもしれません。「職業人生の設計」専門家である北野唯我さんは、フィーリング重視の会社選びにはリスクがあると語ります。
今回は、20万部突破のベストセラーがマンガ化された『マンガ このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』の発売を記念し、転職先に選んではいけない「ヤバい会社」の見極め方について、北野さんに聞いてみました。
直感優先で会社選びをしてはいけない3つの理由
──今回の本、めちゃくちゃ面白かったです! 読んでいて衝撃を受けるポイントが多かったんですが、なかでも、声をあげるくらいびっくりしてしまった台詞がありまして。
北野唯我(以下、北野) おお、ありがとうございます(笑)。どの台詞でしょう?
──主人公の奈美が転職先の会社選びで迷っていたとき、相談役の青野さんが「なんとなく好き嫌いとかフィーリングで選ぶのがいちばんダメだよ」とアドバイスしていましたよね。
──私の周りでは、「なんだかんだ、最後はフィーリングでしょ!」とか「人の雰囲気がいいかどうかがいちばん大事」とか、直感重視で会社選びをしている人が多数派なので、「えっ、フィーリング優先ってダメだったのか!」と。
北野 もちろん「直感」を絶対に使うな! というわけではないですよ。ただ、私はフィーリング優先の会社選びには3つの問題があると考えていて。
まず第1に、「直感の精度」はぶれます。鋭い人もいれば、鈍い人もいる。恋愛で考えるとわかりやすいのですが、「この人が運命の人だってピンと来たの!」と言いながら、とんでもない相手を好きになってしまう人、よくいません?(笑)
──ああ、めちゃくちゃ思い当たります……! たしかに、ほんとうは鈍いのに「私は直感が鋭い」と思い込んでいる人って多い気がします。
北野 そう。自分が鈍いか鋭いかを冷静に判断するのって、じつはけっこう難しいんですよ。
──なるほど。
北野 第2に、「人軸で選ぶ」ことのリスクを加味したほうがいい、ということ。
フィーリングで決めるタイプの人は、「人がいい」「働いている人たちの雰囲気がいい」というように、「人軸」で選んでいることが多いですよね。
──たしかに。「面接で話した人の雰囲気がすごくよかったからあの会社に決めた」という話はよく聞きます。
北野 でも、「働く人」は変わる可能性があるんですよ。面接で話した人の雰囲気がよかった、気が合った。たしかにそれは事実かもしれない。でも、その人と一緒に働けるかどうかはまた別の問題です。「人軸」で選ぶと、入社前と入社後のギャップが大きい可能性があるんですね。
──うーむ、言われてみればそうですね……。
北野 第3に、直感的に「ここがいい!」と決断するとき、長期的な視点を失ってしまっていることが多いんです。短期的にしか考えられておらず、「この会社に入ったら、自分の市場価値は今後どう変化していくだろう?」など、将来のことを加味できていない。
たとえ、「自分に合う会社はここだ!」という直感が当たっていたとしても、そこが衰退産業だとしたら……。5年後、10年後、15年後を見据えて考えると、後悔してしまう可能性はありますよね。
──そう言われると、「なんとなく」で選ぶのって恐ろしいですね。一度の決断がその後の市場価値を大きく左右してしまうかもしれない。
北野 べつに、「直感を信じるな」と言っているわけじゃないんですよ。私自身、直感で判断することもありますしね。ただ、奈美のように「なんとなく」や「好き嫌い」だけで決めようとしている人がいたら、私はちょっと待ってと言いたいです。直感でいいと感じた会社があったら、そのあと「思考法」を使ってきちんと検証してほしい。
今回の本にもいろいろな思考法が登場しますが、そういうフィーリングに自信がない人や、進路に迷ってなかなか決断できない人でも冷静に考えられるように、順序立てて説明しています。焦る必要はないので、じっくり自分の働き方と向き合っていきましょう。
会社選びで「絶対にやってはいけないこと」
──衝動的に転職して後悔しないために教えていただきたいのですが、「この会社にだけは入るな!」というような、「ヤバい会社」の見極め方はありますか? ビジネスパーソンの成長を阻害してしまうとか、いまは勢いがあるように見えても、今後衰退していく可能性が高い、とか。
北野 では、「ヤバい会社」=自分のマーケットバリューを高められない会社、と定義して考えてみましょうか。絶対にやってはいけないのは、「10年前とまったく同じサービスを、同じ顧客に売っている会社」を選ぶことです。
──同じサービスを10年も売り続けられる=安定している、ととらえられそうな気もするのですが、何が問題なのでしょうか。
北野 本のなかでも登場しましたが、その人のマーケットバリューは、①技術資産、②人的資産、③業界の生産性という3つの要素の掛け算で決まります。
北野 高い専門性や経験を持ち、どんな会社からも必要とされる「技術資産」があるかどうか。どんな人からも信頼され、多くの人脈を持つ「人的資産」があるかどうか。
じつは、この2つの軸よりもマーケットバリューに大きく影響してしまうのが、「業界の生産性」なのです。
──「技術資産」「人的資産」のような、個人のスキルよりも「業界の生産性」のほうが影響が大きいというのは意外です。
北野 でも、同じ激務なのに業界が違うだけで給料が大幅に変わるというケース、見たことありませんか? たとえば、金融業界とブライダル業界では、給与に10倍、20倍くらいの差が出てしまう可能性もあります。
──たしかに、スキルはそれほど差があるようには見えないのに、業界によって一方は年収2000万円、他方は200万円……なんてこともありますよね。
北野 そもそもマーケットバリューというのは、どの業界を選ぶか? によって圧倒的に上下するんです。いくら技術資産や人的資産が高くても、そもそもの業界を間違えたら、マーケットバリューは絶対に上がりません。
──なるほど。
北野 自分のマーケットバリューを高めるには、これから伸びる業界に身を置く必要があります。
これを前提として考えると、「10年前とまったく同じサービスを、同じ顧客に売っている会社」のマーケットは、安定しているように見えて成熟しきっている可能性が非常に高いんです。いまはよくても、これから衰退していくリスクも検討するべきでしょう。
会社単位で見ても、これだけ変化が激しい時代に何も変わっていないのは、経営者が長期視点に立てていない証拠です。短期視点で利益を回収しにいっているだけで、将来に投資できていない可能性が高い。
「ヤバい会社」を見極める2つの方法
──何を見て判断するのがいちばんわかりやすいでしょうか?
北野 おすすめの方法は2つあって、ひとつは、転職先候補のホームページなどで「10年前はどんな事業をやっていたのか」を調べてみること。もし、いまとやっていることがそれほど変わっていないのだとしたら、経営者が10年前に「新しいことをやらない」「未来に投資しない」と判断した可能性が高い。となると、入社後、向こう10年も変化する可能性が非常に低く、いまはよく見えたとしても、今後衰退していくかもしれません。そういう会社に入ってずっと同じ仕事をやらされていたら、スキルも伸びないし、キャリアアップも難しいですよね。
──社歴や沿革などを調べて、いまと比較してみるといいかもしれませんね。
北野 もうひとつ、より身近な方法は、「コロナ禍にどう対応したのか?」を調べてみることです。
──なるほど! たしかに、この緊急事態への対応の速さに差が出ましたよね。
北野 このコロナ禍では、企業の動きはとても見やすいですよ。こういう「予測できない危機」にどんな判断をするか、どれくらいの速度で意思決定をしてきたのか、従業員のためにどんな判断を下したのか? 意思決定の種類とスピードがわかります。
──身近なところに、会社選びの判断材料はたくさんあるんですね。
北野 はい。とはいえ、「ヤバい会社」の見極め方以外にも会社選びのポイントはいろいろあります。やりがいを求めるのか、将来的な年収アップを求めるのか、何を重視するのかも人によって違うでしょう。だからこそ、「転職の思考法」を使ってたしかな「判断軸」を持ち、ぴったりの会社を探してもらえたらと思います。
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第1回 会社が嫌だと愚痴りながら「ブラック企業からなかなか抜け出せない人」の残念な特徴
第2回 転職の引き留めでバレる! 今すぐ離れるべき「ヤバい上司」の行動パターン
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役などを経て、現在、ワンキャリア取締役。テレビ番組や新聞、ビジネス誌などで「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家としてコメントを寄せる。著書に『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む転職の思考法』『OPENNESS 職場の「空気」が結果を決める』(以上、ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などがある。最新刊は『マンガ このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』。