新澤巖夫さん新澤巖夫さん Photo by Yohko Yamamoto

危機を乗り越え、
前人未到の究極の食中酒造りに挑む!

 米を0.85%まで磨いた零響(れいきょう)は、221日間、精米機を稼働させて醸した酒だ。

「自分が飲んでみたかった」と新澤醸造店5代目の新澤巖夫さん。赤字続きで廃業寸前だった実家の蔵から、東京農業大学へ進学し、新聞配達をしながら醸造学を必死に学んだ。24歳で蔵を継ぎ、杜氏になって酒蔵の改革を実行。

 目指したのは、食事を引き立たせる究極の食中酒だ。2002年に新銘柄の伯楽星を立ち上げると、国際線の機内酒に選ばれるなど、人気を博した。

 だが、11年の東日本大震災で酒蔵は全壊し、商品も失う。絶望的な状況の中、全国から51人の蔵元や杜氏が駆け付け、酒造りや出荷を手伝ってくれた。翌年、蔵王山麓の休造蔵を買い、製造部門を移転。冷蔵設備、瓶詰めラインや分析器を整え、勤務時間を短縮。現在、蔵人は36人で、7割は杜氏の渡部七海さんをはじめ、女性たちが活躍する。

 再現性の高い酒造りを狙い、工程ごとに数値を分析し数値化を徹底した。自由出勤制も設け、時給4000円以上の人もいる。寮は個室で風呂はジャグジー付き。車両購入には100万円の補助金を出す。推奨車種は巖夫さんと同じハイブリッドカーで、豪雨で被災した山口県萩市の酒蔵まで編隊走行で向かったこともある。

 力を入れるのは人材育成で、5年間、退職者はゼロ。近年、精米会社を設立し最先端の精米機をそろえた。去年は蔵人が独立し、隣にクラフトジン蒸留所を新設。

「人生を悔いのないように」と巖夫さんは前人未到の究極の食中酒造りに挑む。

伯楽星 純米吟醸伯楽星 純米吟醸
●新澤醸造店・宮城県大崎市三本木字北町63番地●代表銘柄:零響、残響、伯楽星、あたごのまつ●杜氏:渡部七海●主要な米の品種:蔵の華、山田錦、雄町、ササニシキ、ひとめぼれ