突然、告げられた進行がん。そこから、東大病院、がんセンターと渡り歩き、ほかにも多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていくがん治療ノンフィクション『ドキュメントがん治療選択』。本書の連動するこの連載では、独自の取材を重ねてがんを克服した著者の金田信一郎氏が、同じくがんを克服した各界のキーパーソンに取材します。今回登場するのは大腸がんが発覚して人工肛門になった漫画家・小説家の内田春菊さん。第3回ではがんになったことを明かした理由について聞きました。(聞き手は金田信一郎氏)
■内田春菊さんの「がん治療選択」01回目▶「内田春菊さんも紹介された多様ながん治療、奇跡的に治る人も」
■内田春菊さんの「がん治療選択」02回目▶「「人工肛門になる」と告知された内田春菊さんの今」
――内田さんは、手術後に抗がん剤治療を受けていますね。いかがでしたか。
内田春菊さん(以下、内田) 大腸がんの抗がん剤って、あまり髪の毛は抜けないらしいんです。
――それはいいですね。私は抗がん剤で、髪の毛は全部抜けました。
内田 がんの場所によって違うようですね。私も長髪だったんで、これが抜けたら大変だと思って、抗がん剤治療に入ったら、ベッドの近くにコロコロを置いて、毎日掃除していました。みなさん、抜けることそのものよりも、掃除が大変だとおっしゃいますよね。中には一旦、毛が抜けたら、次に生えてくるのが白髪だったり、もう生えてこなかったりするパターンもあるとか。
――私も抗がん剤を5クールしたので、もう髪の毛は生えてこないかもなと思っていました。結局、生えてきたんですけど。ただ、爪がボロボロになりましたね。食べ物の制限はなくて、比較的自由に食べていいとも言われていたのでそれはよかったですね。最初に入院した東大病院と転院先の国立がんセンター東病院では、この対応がまったく違っていました。東大はすごく厳しかったんです。「生野菜や刺身はダメです」と。けれど、がんセンターはもう何の制約もなかったんです。「刺身は食べても大丈夫ですか」と言ったら、「腐っているのはやめてください」と。だから、抗がん剤はあまり恐れることはないと思いましたね。ただ、女性にとっては、髪の毛が全部抜けるのはきっとショックでしょうね。
内田 私の場合、髪の毛は抜けませんでしたが、抜けるイメージはありました。だから抜けることを前提に、抗がん剤治療が始まったらツーブロックにしたり、金髪にしたりして、景気づけていたんですが全然抜けなくて……。ただの元気な人になっていました。
――結局、リンパ転移もなく、内田さんの大腸がんはステージ1だったんですよね。
内田 そうなんです。最初はもっと進行している疑いがあったんです。でも実際に手術をしてみたら、子宮の裏側が炎症をしていただけで、それが収まるとリンパへの転移はなくって、ステージ1だったと分かったんです。安心しました。
――内田さんは、がんになったことを特に隠したりしなかったんですね。
内田 友達には打ち明けていました。ただ、誰も口外しませんでした。ただ逆に、私自身ががんの情報をほしくなって打ち明けるようになっていきました。実際に打ち明けてみたら、「実は私もがんです」という人が多かったので驚きました。大半は女性だったけれど。男性でも公表はしていないけど、人工肛門の人はたくさんいるようですね。
――その後、再発などの問題はないんですか。
内田 大きな再発はありません。ただ、左肺に5ミリくらいの腫瘍ができて、CTの技師によると、腫瘍が大きくなっている気がするって言うんですよ。気になるから、ここは定期的に調べています。去年は、「大きくならないから、良かったね」ってなっていたんです。腫瘍マーカーで調べても、特に悪い結果は出なかったので安心しました。
――一度がんになると、寛解したと思っても、ちょっとした痛みやしこりができると、「がんの再発じゃないか」と気になりますよね。
内田 この間も膝が痛くて、もしこれが、がんだったらどうしようって思ったんです。結局、ただ捻っただけだったんですが。私はもう5年も経ったけど、そう思うこともありますもんね。
今年はコロナ禍ということもあって、検査に行っていないんです。ちょっと検査に行きづらい時期ですよね。
――でも、再発せずに5年がたったんですね。一つの区切りですね。おめでとうございます。