突然、告げられた進行がん。そこから、東大病院、がんセンターと渡り歩き、ほかにも多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていくがん治療ノンフィクション『ドキュメントがん治療選択』。本書の連動するこの連載では、独自の取材を重ねてがんを克服した著者の金田信一郎氏が、同じくがんを克服した各界のキーパーソンに取材します。今回登場するのは大腸がんが発覚して人工肛門になった漫画家・小説家の内田春菊さん。第1回では大腸がんが発覚した経緯を伺いました。(聞き手は金田信一郎氏)
――実際にがんをご経験された方にインタビューさせていただいています。
内田春菊さん(以下、内田) 私も大腸がんが発覚して、「人工肛門になるかも」と聞いた時はびっくりしました。けれど、がんに関してはそれほど驚きませんでした。
――自分の経験ともすごくダブリました。私も当初は「外科手術」と言われていて、特に違和感は感じていませんでした。「がんだから、切除するのは当然だろう」という感じでした。
内田 私も近いですよ。大病院で「手術がすごく上手」と言われていたんです。金田さんは自分の治療法を決めるときにいろいろな人の話を聞きましたか。
――聞きました。もともとジャーナリストなので、医療記者や医師など、思い当たる人には片っ端から聞いたんです。そこで、「放射線治療でも同じような効果が期待できる」と知ったんです。でも、最初にがんと告知された東大病院は、手術をすることが前提で、それ以外は何も教えてくれなかった。結局、国立がんセンター東病院に転院して、放射線治療に切り替えたんですが、一連の治療が終わったら、東大病院に取材に行こうと決めていました。それで、「先生、なんで最初から放射線治療の可能性があるのに教えてくれなかったんですか?」と質問したんです。すると当時の主治医の先生は、「医療界は最善の治療を示すんです。その人の考え方やライフスタイルは1回置いておいて、がんだけを見て最善の治療を提案していくんです」と説明したんですね。
内田 私の場合も、医者と病院が提案するままにどんどん治療方針が固まっていきました。ただ自戒の念も込めて言うと、やっぱりある程度、頭の体操はしていないとダメだなと思いました。医者が「これだ」と言うと、患者は流されちゃいますから。
一方で、独自の治療哲学に固執しすぎて、標準治療を受けるタイミングが遅れた結果、「手遅れ」になったケースをいくつか聞きますね。
――アップル創業者のスティーブ・ジョブズもそうですよね。膵臓がんを自然療法で治そうとして手術が遅れたことが寿命を縮めた、と言われます。
内田 がんにかかると、それぞれの考え方でそれぞれの治療をやったりしますよね。それで、自分が実践した方法を人にも薦めたりして。私のところにも、健康食品を薦めてくる人がいました。
あとは遺伝子解析を使った治療に挑戦した人も知っています。100人のうち3人から5人にしか効かない治療法を受けられるそうで。それでがんが消えていったそうなんです。その人はSNSでもその治療を紹介しています。同時にスピリチュアルな治療法でも治ったように伝えていまから、そんな情報を見ると、誤解しちゃうかもしれません。
もちろん、全身にがんが回っていても、奇跡的に治る人もいます。まれに「一生懸命、家を掃除したら3ヵ月でがんが消えた」という人もいらっしゃいます。1000人に1人いるかというすばらしい話かもしれませんが。
――ご本人の免疫力がものすごく活性化されれば、場合によってはあり得ることなのかもしれませんね。
(2021年8月8日公開記事に続く)